「中国に対して世界は無言でいないで」ウイグル男性の思いとは

NHK 2023/1/25

去年11月、中国各地で起きた「ゼロコロナ」政策に反対する抗議活動。

抗議が広がるきっかけとなったのが新疆ウイグル自治区で10人が死亡したとされる火事でした。

「この事件に関して誰も中国に対して無言でいてほしくないんです」

この火事で「母親と弟妹4人が死亡した」という情報を、SNSでしか確認することができなかった、ある男性の思いです。

(イスタンブール支局長 佐野圭崇)

SNSでしかわからない実家の火災
去年11月24日、新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチにある高層マンションで起きた火災。

中国国内では「新型コロナの感染対策で逃げ道が封鎖されていた」などといった情報がSNS上で拡散しました。

6年前までそのマンションで家族と一緒に暮らしていたのが、トルコの最大都市イスタンブールで暮らすムハンメット・メメットアリさん(22歳)です。

火事が起きた11月24日、メメットアリさんはSNSで、かつて住んでいたマンションが炎に包まれている動画を見て愕然とします。

家族の安否を確認しようと必死で火事に関する情報を検索し、見つけたのはSNSで拡散されていた死亡者のリスト。

メメットアリさんはその中に母親カメルニサさん、そして幼い4人の弟妹の名前を見つけてしまいます。さらに母親とみられる遺体をうつした映像まで目にしました。

メメットアリさん
「SNSで知ったときには信じることができずショックでした。母の遺体を見て、事実だと認めざるをえませんでした。いつかきっと、また会えるという希望を持って生きてきたのに自分自身を見失いました」

「私がいれば助けられたかも」
メメットアリさんは6年前、3つ上の姉とともにウルムチから同胞を頼ってトルコに渡ります。新疆ウイグル自治区を離れたのは父親の勧めでした。

メメットアリさんによると、当時、自治区ではイスラム教の聖典コーランを読んだり、大学で礼拝をしたりしただけで当局に拘束されるケースが相次いでいました。

トルコへの渡航はそうした拘束を恐れてのことでした。

しかしトルコに到着してまもなく、知人から「父と兄が連行され刑務所に入れられたようだ」と聞かされます。

トルコにいるほかのウイグルの人たちの中にも渡航後に家族が拘束されたという人がいました。

メメットアリさんは、姉とともにトルコに渡ったことが中国当局に問題視されたのではないかと考えています。

故郷に連絡することでさらに家族が拘束されることをおそれ、この6年間、電話やメールなど一切連絡をとっていなかったメメットアリさん。

当局に直接連絡を取るわけにもいかず、母親や弟妹の死亡を実際に確認できたわけではありませんが、メメットアリさんは「故郷からの6年ぶりの知らせが大切な家族の“訃報”になってしまった」とショックを受けていました。

メメットアリさん
「母に謝りたい。私や姉がそこにいたら助けることができたかもしれない。父や兄が刑務所ではなく家にいたら、助けることができたかもしれない。母は家で幼い弟妹たちを助けようとしたのだろうかと考えてしまいます。想像するだけでつらいです」

「ゼロコロナ」政策批判で広がった情報
10人が死亡したとされている今回の火事をきっかけに、11月下旬には北京や上海など中国各地で「ゼロコロナ」政策に反対する大規模な抗議活動が起きました。

ウイグルの人たちの間では「犠牲になった同胞は数十人に上っている」と死者はもっと多いはずだと非難する声も上がっています。

こうした批判について、地元政府は記者会見を開き「現場で救助活動にあたった人員などに繰り返し確認したが、指摘されているような問題はなかった。マンションの各階にある門は閉鎖されておらず、インターネット上で広まった門が針金で開かないようになっていたという写真は悪意のあるすり替えだ」と説明。

中国外務省も「SNS上には今回の火事と現地の感染対策を結びつけようという下心をもった勢力がいる」としています。

普段はなかなか外に出てこない自治区で起きた事件や事故の情報が、今回の火事ではなぜこれほど世界を駆け巡ったのか。

メメットアリさんは、中国人自身が今回の火事を自分の身にも起きるかもしれないことだととらえたからだと感じています。

メメットアリさん
「今回は多くの中国人がSNSでシェアしたのです。彼らが自治区で起きている現実を見てしまったからです。いつか自分たちも同じような火事に巻き込まれるかもしれない。自治区の現実が自分たちに降りかかってくるかもしれないと思ったからでしょう」

去年12月イスタンブール近郊で行われた追悼式。

主催者によると、集会を開くための許可は取れたものの声を出すことは認められなかったため、集まった人たちはキャンドルの前に集まり無言で犠牲者を悼んでいました。

この追悼式でもウイグルの人たち以外の中国人の姿も見られました。

トルコで暮らす中国人男性(41歳)
「たしかに私たちは中国国内では多数派です。ただ、中国では誰もが危険にさらされています。中国共産党が私たちを家に閉じ込め、胡錦濤前国家主席でさえ会議からつまみだされました。こうした集会に参加することに大なり小なりリスクはあるでしょう。しかしみんなが黙ってしまったら全員が中国共産党の犠牲になってしまいます」

イスタンブールとドバイを行き来する中国人女性(30歳)
「中国を出てから、ウイグルの人の状況を知るようになりました。中国では新疆の多くの人がテロリストだと教えられていますが、そんなことはありませんでした。ウイグルの人とともに立ち上がるのは私たちの義務だと思います」

「世界が声をあげれば中国は変わる」
12月、イスタンブールのモスクの外には多くのトルコ人が集まり、ウルムチの火事をめぐる中国当局の対応に抗議の声を上げていました。

民族的にも近いことから多くのウイグルの人たちを保護してきたトルコ。この日の抗議活動ではメメットアリさんの家族の写真も掲げられていました。

参加したトルコの人たちは「人権侵害どころではない、中国史に残る汚点だ」「現地で続く弾圧に対抗して支援をする。私たちは最後までウイグルの人たちに寄り添うということを伝えたい」などと口々に訴えていました。

新疆ウイグル自治区の人権状況をめぐっては、欧米各国が民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」だとして中国政府を非難。

アメリカ国務省は「2017年以降100万人以上が当局によって特別に作られた収容所に強制的に入れられたと推計される」と発表しています。

こうした指摘について中国政府は一貫して否定しています。

抗議活動に多くの人が集まったことに驚いていたメメットアリさん。

なんとかしてこの声を中国当局に届け、行方のわからないままとなっている父親と兄に再会したいと考えています。

メメットアリさん
「こんなに多くの人が来るとは思ってもみなかったので少し元気が出ました。今伝えたいメッセージは父と兄が釈放されてほしい。彼らに会いたいです。日本をはじめとして誰も無言でいてほしくないです。この事件に関して世界が黙っていなければ中国は変わるでしょう」

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2023/01/25/28795.html

在日ウイグル人証言録

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