「トヨタ車」にも入り込むウイグルの強制労働部品

東洋経済 2022/12/13

世界の自動車産業は原材料や部品などの調達で今なお中国の新疆ウイグル自治区と深い関わりを持っていることが、新たな報告書で明らかになった。今年発効したアメリカの法律では、中国政府が主にイスラム教少数民族に対して人権侵害を行っているとして、新疆からの物品調達は原則禁止とされたが、それにもかかわらず調達が続けられていることになる。

イギリスのシェフィールド・ハラム大学教授で、人権と現代奴隷制を専門とするローラ・マーフィー氏率いる調査チームが発表した報告書には、新疆と深い関係を持つ中国企業と、そうした中国企業から調達した金属部品、バッテリー、ケーブル、ホイールを使用する自動車メーカーとのつながりが詳しく記されている。

1社だけでなく、「業界全体の問題」
報告書では調査チームが確認できる範囲で、中国がウイグル族をはじめとする少数民族の大量拘留を行ってきた新疆で強制労働プログラムに参加したか、同地域から最近、材料や製品を調達した大手中国企業を特定。

報告書によると、これらの中国企業は自動車部品のグローバルサプライチェーンの重要プレーヤーとなっているため、フォルクスワーゲン、ホンダ、フォード・モーター、ゼネラルモーターズ(GM)、メルセデス・ベンツ・グループ、トヨタ自動車、テスラといった自動車メーカーが、どこかのタイミングで新疆を経由した原材料また部品を使った自動車を販売した可能性は濃厚だ。

「私たちが調査した自動車部品で、新疆ウイグル自治区(の問題)に汚染されていないものはなかった」。マーフィー氏は「これは業界全体の問題だ」と話す。

新疆とのつながりは、世界的な自動車ブランドにとって深刻な問題となるおそれがある。バイデン政権はトランプ前政権と同様に、中国の貿易ルール違反や強制労働でつくられた製品の輸入に厳しく対抗する姿勢を強めてきた。国連の推計によると、世界では2800万人が強制労働に従事させられている。

アメリカでは「ウイグル強制労働防止法」により、新疆で全体または部分的に製造された製品は強制労働によって製造されたと見なされることになった。そのため、国内に持ち込む場合には連邦政府による押収の対象となる。

税関当局によると、6月に同法が施行されて以来、新疆との関係が疑われる約2200件の貨物(総額7億2800万ドル超相当)が摘発された。うち300製品あまりは、最終的にはアメリカへの輸入が認められている。

連邦当局は、どのような種類の製品を押収したか明らかにしていない。ただ、新疆から綿やポリシリコンなどの原材料を調達している衣料品や太陽光パネルメーカーは、この新しい規則でとくに大きな打撃を受けている。

中国は自動車部品供給の重要拠点
ニューヨーク・タイムズは報告書の内容のすべてについて独自に裏を取ったわけではないが、そこでは新疆と直接または間接的につながっている可能性のある中国および外国の企業、約200社の社名が名指しされている。

報告書で名前の挙がった中国の大手製造企業の多くは複数の生産拠点を持っているため、外国の自動車メーカーに供給された金属部品、電子部品、ホイールは新疆以外の工場で製造された可能性もある。

自動車部品のグローバルサプライチェーンは巨大で複雑だ。マッキンゼー・アンド・カンパニーの推計によると、平均的な自動車メーカーは、原材料から部品に至るまで、サプライチェーン全体で1万8000社ほどのサプライヤーとつながっているとされる。

これらサプライヤーの多くは中国に拠点を持つ。その中国は世界の自動車産業の中で重要性を増しており、中国が毎年輸出する自動車部品の約4分の1はアメリカ向けだ。新疆はさまざまな産業の拠点となっているが、その豊富な石炭埋蔵量と緩い環境規制によって金属製錬などエネルギーを大量に消費する材料加工の要所になっていると、報告書では述べられている。

中国のサプライチェーンは複雑かつ不透明で、新疆からアメリカに入ってきている製品を個別に追跡することは難しい。過去3年間にわたり、新疆を含む中国各地では、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるためロックダウンが断続的に繰り返されてきた。パンデミックとなる以前から中国政府は、とくに人権団体や報道機関の新疆へのアクセスを厳しく管理してきた。

原則論を語る自動車メーカー、完全無視のテスラ
こうした制約があるため、新疆の鉱山や工場でウイグル人労働者がさらされている強制労働の程度を判断することも困難だ。それでもアメリカ政府は、弾圧が全面的に行われている新疆の環境に鑑み、企業が強制労働によって製造されたものではないと証明できない限り、新疆を経由したいかなる製品も強制労働によって製造されたと見なすようになっている。

新疆の労働者に「ノーと言えるチャンスはない」。報告書の執筆者の1人でもある新疆出身のヤルクン・ウルヨル氏は、新疆産の製品は「土地、資源、人々を搾取した産物だ」と語る。

ニューヨーク・タイムズが接触した世界的な自動車メーカーは報告書に異議を唱えなかった一方で、人権侵害や強制労働に対して自社のサプライチェーンの管理を徹底していると述べた。

GM、フォルクスワーゲン、メルセデスは、サプライヤーの行動規範によって強制労働は禁止されていると述べた。ホンダは、サプライヤーにはグローバルな持続可能性ガイドラインの順守を求めていると話した。フォードは、中国を含むグローバル事業が、対象となるすべての法律と規制に準拠していることを確実にするプロセスを維持していると語った。

トヨタは声明で、「ビジネスパートナーとサプライヤーには、人権を尊重し、これを侵害しないという当社の指針に従うことを期待している」と述べた。

テスラは繰り返しのコメント要請に応じなかった。

中国政府は、新疆に人権侵害はないと主張し、新疆における強制労働に関する告発を「世紀のウソ」と呼んでいる。

在ワシントン中国大使館の劉鵬宇(リュウ・ペンギュウ)報道官は、「新疆での『強制労働』は、グローバルな産業サプライチェーンから中国を締め出すために、アメリカが意図的にでっち上げ、広めたウソだ」と声明で述べた。

(執筆:Ana Swanson記者)
(C)2022 The New York Times
https://toyokeizai.net/articles/-/638745

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