池上彰さんが驚愕「新疆ウイグル自治区」 悪魔の技術が実現させた恐るべきディストピア

BookBang 2022/2/7

池上彰・評「悪魔の技術が実現させた恐るべきディストピア」
中国政府による弾圧が続く新疆ウイグル自治区を描いた書籍が話題となっている。日本語訳が発売一週間で重版となるヒットを記録している『AI監獄ウイグル』(ジェフリー・ケイン著/濱野大道訳)は、“デジタルの牢獄”と化した新疆の実態を、アメリカ人ジャーナリストの著者が膨大な取材に基づき告発した一冊だ。ジャーナリストの池上彰氏は、その取材結果を「驚くべきもの」と評している。

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新疆ウイグル自治区でのウイグル人への弾圧は、しばしばニュースになります。中国政府に対し、弾圧を止めるように求める国際的圧力も高まっていますが、中国政府は弾圧を一切認めていません。強制収容所の存在も「ウイグル人のための職業訓練の学校だ」と強弁してきました。

中国政府のウイグル人に対する政策が、本当にウイグル人のためになっているのなら、西側のメディアに自由に取材をさせればいいのですが、それは叶いません。ときたま政府による官製ツアーが催されますが、そこに登場するウイグル人たちは、中国共産党の「温かい思いやり」を称賛するばかり。本音を聞くことはできません。

現地で自由な取材ができなければ、外側から攻めるしかない。この課題に果敢に挑戦したのが西日本新聞です。今年の元日、同紙は、以下の記事を掲載しました。

〈【北京・坂本信博】中国政府が30年以上にわたってほぼ毎年「中国統計年鑑」で公表してきた地域別出生率(人口千人当たりの出生数)の項目が、昨年9月刊行の2021年版年鑑から消えた。西日本新聞は新疆ウイグル自治区で18年以降、出生率が急減した事実を報じ、少数民族に狙いを絞った人口抑制策が実施された疑惑を指摘してきた〉

都合が悪いデータは隠蔽する。これが中国政府のやり口です。西日本新聞は、たとえ現地に足を運ばなくても、ウイグル人への抑圧の実態を描き出しましたが、その結果、データにアクセスできなくなってしまいました。

こんな現状だからこそ、本書の存在価値は高くなります。過去にも新疆ウイグル自治区から逃げ出してきた人たちの証言はあります。それによって、抑圧の実態が次第に明らかになってきましたが、当事者の証言は「客観性に欠ける」という批判もあります。ジャーナリストとしての訓練を受けていないと、自分が経験したことを客観的に見ることができなかったり、体験を大げさに描いたりすることがありうるからです。本書は、そうした欠点を極力排除して客観的な事実を描いています。

著者はアメリカ人ジャーナリスト。2017年8月から2020年9月までに168人のウイグル人たちにインタビュー取材をし、証言内容の裏取りをした上で、疑わしい証言は捨てることで本書がまとめられました。

結果は、驚くべきものでした。かつてジョージ・オーウェルは小説『1984』で、「ビッグ・ブラザー」によって、人々のあらゆる言動が監視されるディストピア社会(ユートピアの逆)を描き出しました。こんな社会は、いくら監視技術が進んだところで、実現することはないだろうというのが、1983年に私が読んだときの感想でした。しかし、現実の新疆ウイグル自治区では、それ以上の監視システムが実現していたのです。

そのシステムの名称は「スカイネット」。映画「ターミネーター」で描かれた未来の世界を支配するAI(人工知能)の名前と同じではありませんか。

新疆ウイグル自治区では、中国政府が完璧な警察国家を作り出すために3つのステップが進められたといいます。

第一段階は「敵を特定すること」。イスラム教徒などの「敵」を選びだし、あらゆる問題を彼らのせいにすること。

第二段階は「敵を監視する技術を管理すること」。それだけではなく、「敵についてのフェイク・ニュースをソーシャル・メディアやアプリで広めること」。

第三段階は市民すべてを監視下に置き、「互いに密告するよう家族や友人にお金が支払われる」。すると「多くの人は敵と味方を区別することができなくなり、政府に対抗するために必要な情報も得られなくなる」というわけです。

中国によるウイグル人への迫害は、中国国内に留まりません。一帯一路プロジェクトの一環として、エジプトに対してインフラ投資などで112億ドルを提供する代わりに、エジプト政府は国内に在住しているウイグル人たちを片っ端から中国に強制送還しました。

さらにトルコも2018年、アメリカのトランプ政権によって経済制裁を受け、経済が苦境に陥ると、中国からの支援を受け入れます。その見返りに、国内にいるウイグル人たちを中国に送り返し始めたのです。

トルコもエジプトも、ウイグル人たちと同じイスラム教徒が多数を占める国なのに、同胞のはずのイスラム教徒を守ってはくれませんでした。

それにしても、スカイネットという恐るべきシステムを、中国はどのようにして確立したのか。それはアメリカのIT企業から得たAI技術であり、顔認証ソフトでした。それが、中国で独自に進化した「微信」(ウィーチャット)などのSNSと合体したのです。

ITはたしかに私たちの社会を便利にしてくれましたが、その先には恐るべき陥穽が待ち構えていたのです。ITはユートピアではなくディストピアをもたらす悪魔の技術になりうることを本書は教えてくれます。

https://www.bookbang.jp/review/article/724221

在日ウイグル人証言録

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