「ウイグル問題」を日本企業が無視できない理由

東洋経済 2023/06/08 8:00

「ウイグル問題」を日本企業が無視できない理由
アメリカの輸入規制強化は何を意味するのか
福原 あゆみ : 長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士

近年、企業の人権尊重の必要性について国際的な関心が高まる中、欧米諸国では企業の人権尊重を目的とした法制化が続いているほか、日本政府も公共調達の入札企業に人権尊重の確保を求める方針を公表している。こうした中、サプライチェーン上のさまざまな人権課題について、日本企業もさらなる理解とコミットメントが欠かせなくなっている。

本稿では、『基礎からわかる「ビジネスと人権」の法務』著者で、弁護士の福原あゆみ氏が、新疆ウイグル自治区における強制労働を巡るアメリカによる規制強化と、日本企業への影響を解説する。

強制労働への規制を強めるアメリカ

人権尊重の動きは近年急速に高まっているが、その中でも中国の新疆ウイグル自治区を巡る動きはグローバルでも注目を集めている。

アメリカ当局の公表によれば、中国政府は、新疆ウイグル自治区において、「相互ペアリング支援プログラム」と呼ばれる、中国企業が同地区に工場を設立して収容所と連携することを促進するプログラムや、「貧困軽減プログラム」と呼ばれる、貧困撲滅と称してウイグル族などを中国各地の農場や工場に配置するプログラム等による強制労働を組織的に行っているとのことである。

また、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)も2022年8月に、職業訓練の名目で同地区内の施設にウイグル族を収容するなどの深刻な人権侵害が起きているとの報告書を公表しており、同地区における人権侵害は国際的にも重大な問題として認識されている。

アメリカはもともと他国に先駆けて、関税法等を根拠とした人権侵害への輸入規制を積極的に行ってきた。執行当局であるアメリカ税関・国境警備局(CBP)は、アメリカに輸入されようとする貨物が強制労働により製造された疑いがあると判断した場合、当該貨物の調査を開始することができ、調査の結果、強制労働により製造されたことを合理的に示す情報が得られた場合、違反商品保留命令(WRO)を発出して、当該貨物の輸入を保留する権限を有している。

CBPは、近年、このスキームに基づいて、海外での人権侵害を根拠とする輸入差し止めを積極的に執行してきた。特に、2021年5月、日系アパレル企業が輸出した衣類の輸入が中国新疆ウイグル自治区で生産された綿花を使用しているとして輸入差し止めを受けたケースは、日本企業に大きな衝撃を与えた。

いったんWROが発出されても、これが会社の取り組みみにより撤回されるケースも存在する。例えば、今年の4月28日、CBPは、2021年11月にマレーシアのゴム手袋メーカーが製造現場で強制労働を行っているとして同社が製造した使い捨て手袋に対してWROを発出していたが、同社が労働環境の改善や人材派遣費の返済を行うなどした結果、強制労働の状況が改善されたとして、同社に対して発出したWROを撤回すると公表した。

ただ、このケースでもWROの撤回までに1年半近くかかっていることからすれば、いったんWROが発出されると、その撤回には相当の時間とコストがかかることが想定され、これは企業にとって大きな負担となりうる。

さらに強力な「ウイグル強制労働防止法」

そして、近時さらなる脅威となっているのがウイグル強制労働防止法(UFLPA)である。同法は2021年12月にバイデン大統領の署名により成立しており、2022年6月から同法に基づく輸入禁止措置が施行されている。

UFLPAは、新疆ウイグル自治区で全部、または一部が生産された製品について強制労働により生産された製品であると推定し、輸入者である企業が強制労働により製造されたものでないことを「明確かつ説得力のある証拠」により立証した場合に限って輸入が認められるとしている。これは、企業側に強制労働を利用していないことの立証責任が課せられている点で、企業にとっての負担が重く厳しい規制となっている。

また、CBPが2023年2月に公表したガイダンスでは、輸入者が適法性を立証するために提出すべき資料として、原材料の支払いや、輸送に関する文書(請求書、契約書、発注書等原材料の支払い・輸送に関する商取引が発生したことを示す記録など)、輸入品とその構成品の原産国を証明する取引およびサプライチェーンの文書(梱包明細書、船荷証券など)が広範に挙げられている。

同法に基づく差し止めが行われた際には、このような多岐にわたる情報・資料の提出が必要となり、日本企業が輸出業者となる場合には、輸入者から当該情報・資料の提出を求められる可能性が高い。

CBPの公表によれば、2021年10月~2022年9月において、CBPは強制労働の疑いにより、8億1650万ドル相当(計3605件)の輸入を差し止め、そのうち約5億ドル相当の1592件(件数ベースで約44%)の輸入はUFLPAに基づく差し止めであったとのことであり、同法に基づいて相当数の差し止めがすでに執行されていることがわかる。

なお、差し止められた後、最終的に輸入が認められた製品も一定割合で存在する。CBPの公表によれば、UFLPAが施行された2022年6月21日から2023年3月3日までの期間に、全体で3237件の輸入がCBPによる差し止めの対象になった後、424件が輸入を禁止され、1090件は税関の通過が認められたことが分かる。

余りは調査中の件数となるが、どのような根拠において税関の通過が認められたのかは判然としない。そのため、特に、自社の製品(またはそれが組み入れられる最終製品)がアメリカに出荷されることが想定される企業は、サプライチェーンをマッピングし、UFLPAなどに基づく輸入差し止めのリスクがないかどうかを確認する体制を整備する必要性に迫られている。

また、新疆ウイグル自治区との関係では、WROの発出を逃れる目的で、リスト掲載企業等が同自治区から第三国を経由して商品を積み替え、アメリカの輸入制限を回避する「ロンダリング」の問題も指摘されており、新疆ウイグル自治区を直接経由しなかったことのみによってリスクを回避することができるわけではない点にも留意すべきである。

強制労働に関与している企業のリストは要確認

CBPは、アパレル、綿花・綿製品、シリカ系製品(ポリシリコンを含む)、トマト・トマト製品、PVC(ポリ塩化ビニル)といった製品群に関し、強制労働のリスクが高く、執行の優先度が高いとして公表している。これらの製品群の中には、トマトや太陽光パネルの原料であるポリシリコンなど、シェアのかなりの部分が新疆ウイグル自治区(または中国)に頼るものもある。

そのため、企業としては、このような輸入差し止めなどのリスクを踏まえても、調達先を容易に変更できない場合もあると思われるが、少なくともアメリカ輸入品(またはその可能性がある製品)については、よりサプライチェーンの可視化が求められている。

なかでも、CBPが、新疆ウイグル自治区における強制労働に関与しているとして公表している企業のリスト(UFLPAエンティティリスト)に掲載されている企業がサプライチェーンに含まれていないかをチェックすることは重要である。

一方で、新疆ウイグル自治区における強制労働の事実を否定している中国政府は、このようなアメリカの規制に対して強く反発し、中国に対する差別的な制限措置に対して取引停止などの制限を課すことができるとする反外国制裁法を定めているほか、企業が同地区における強制労働の懸念を示したことに対する中国国内での不買運動が行われた事案も複数確認されている。

アメリカ・中国双方でビジネスを行う日本企業としては、このようなアメリカ・中国双方の動きをにらみながら、サプライチェーンの調査手法についても、外部専門家と協議するなどしつつ、慎重に進めることが求められる。

https://toyokeizai.net/articles/-/677733

在日ウイグル人証言録

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