JAPAN Forward 2021.4.12
中国当局による新疆(しんきょう)ウイグル自治区での弾圧をめぐり、現地で約1年半拘束されていたウイグル人女性が、亡命先のフランスで産経新聞のインタビューに応じた。「収容所は常に女性の悲鳴が響いていた」などと語った。その証言から、少数民族ウイグル族に過酷な拷問を加え、中国共産党への忠誠を強いる「再教育」の実態が浮かび上がった。
女性はカザフスタン国籍の貿易商、ギュルバハル・ジャリロバさん(56)。2017年5月、自治区の区都ウルムチを訪れた際にテロ幇助(ほうじょ)容疑で拘束され、18年9月までウイグル族の女性収容施設で過ごした。そこでは尋問と拷問が繰り返され、爪をはがされた人もいたという。
ジャリロバさんは、男性警察官が突然、女性たちに服を脱ぐよう命じることもあったと振り返り、「私たちに屈辱感を与え、イスラム教徒である自分の肉体を恥じるよう仕向けた」と怒りを語った。説明のないまま注射や投薬を強いられ、生理が止まる人も続出したと話した。
手錠、足錠と鎖を付けられ
ジャリロバさんは自治区に隣接するカザフスタンから20年来、ウルムチに商売で通っていた。17年5月、いつものホテルに投宿した翌朝、3人の警察官に突然連行され、旅券と携帯電話を没収された。警察署で、約20万円相当の金を振り込んで「テロを幇助した」容疑を認めるよう迫られた。「何かの間違い。弁護士を呼んで」と訴えると、殴られ、収容所に連れていかれた。「サンカン」と呼ばれる古い監獄だ。
収容所では最初に「服を脱げ」と言われ、検査用の採尿を命じられた。黄色い古着の上着とズボンを渡された。収容所の「制服」だ。手錠、足錠と鎖を付けられ、自由に身動きできなくなった。足錠は5キロ近くあった。
居住房は全長7メートル、幅3メートルほどの広さ。スピーカーと監視カメラがあり、女性約40人が押し込められた。半分以上が20代以下だった。みんな頭髪を刈られた。
居住房は寝台がなかった。夜は半数が立ち、2時間交代でゴロ寝した。冬のウルムチは零下5度に冷え込むが、布団もなかった。
私語やイスラム教の祈りは禁止。あぐらをかいているだけで、監視カメラを見た係員がやってきて、「祈るな」と怒鳴られた。
食事は3食、スープに水、小さいパンだ。スープの具は朝は小麦の麺、昼と夜は白菜かきゅうりだった。食前には中国共産党をたたえる歌を斉唱させられた。
拷問の恐怖
みんなが恐れたのは、尋問だった。入所者は1人ずつスピーカーで名前が呼ばれ、担当の警官に黒頭巾をかぶらされ、別室に連行された。2日以上戻らない人もいた。戻った人は恐怖で意識がもうろうとしていた。「尋問中の拷問で爪を剥がされる女性もいた」という。針の刺し傷があった人もいた。
ジャリロバさんは拘束から3カ月目、初めて尋問を受けた。午後8時から翌朝9時まで。鉄輪で椅子に固定され、容疑を認める書類にサインを迫られた。拒否すると殴られ、スタンガンで電気ショックを加えられた。意識を失ったこともある。
同室の女性の中には精神に異常をきたす人もいた。忘れられないのは、自分の大便を顔にこすりつけていた女性だ。「男になる」とつぶやいていた。ジャリロバさんは「髭(ひげ)をつけたつもりだったのだろう。性的暴行のせいかもしれない」と推察する。「死にたい」と言い、コンクリートの壁に頭を何度も打ち付ける女性もいた。監視カメラを見た係員に連行され、戻ってこなかった。
「洗脳」と屈辱
毎週金曜日の午後は「教育」の時間だった。習近平国家主席をたたえた約20分のビデオを見る。自治区に開通した鉄道や道路の映像とともに巨大経済圏構想「一帯一路」の「すばらしさ」がたたき込まれる。その後、紙と鉛筆を渡され、「私たちを貧困から救ってくれた最高指導者への感謝」を書くよう宿題が課される。恩義に背いたとして、自己批判も記さねばならない。
月曜の朝までに書き終えないと、罰として食事を抜かれる。「仕置き部屋」に監禁されることもある。2メートル四方で窓がなく、トイレ用に穴のあいた木箱がある小部屋だ。
居住房には時々、警察官約10人が来てみんなに「服を脱ぎ、頭に手をあてて3度お辞儀をしろ」と命じた。尋問中、若い警察官がズボンを脱ぎ、襲い掛かってきたこともあった。「あなたにもお母さんがいるでしょう。なぜ、こんなことをするの」と抵抗すると、警察官は「お前は獣。家族などいない」と言った。
10日ごとに「謎の薬を打たれた」
収容所では10日ごとに房の扉から腕を引っ張られ、注射を打たれた。何の薬か説明はなく、注射後は頭がぼうっとした。さらに飲み薬を渡され、服用を強いられた。収容所の女性たちは6割近くが20代以下だったが、多くは生理が止まった。ジャリロバさんも生理が止まった。
18年9月、突然釈放された。直前に病院で身体検査を受け、65キロだった体重は45キロになっていた。20錠近い薬を渡され、飲んだかどうか、口を開けて確認された。足錠は1年半近くの装着でネジがさび、ペンチで切断しないと外せなかった。
帰国の際、警察官から「収容生活のことは黙っていろ」と言われた。外国にいても監視の目が光り、口外すると家族に悪い影響が及ぶ、と脅された。カザフスタン帰国後、親族を頼ってトルコ、さらにフランスに渡り、政治亡命を申請した。
筆者:三井美奈(産経新聞パリ支局)
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■ウイグル族弾圧
中国新疆ウイグル自治区で、ウイグル族などイスラム教徒少数民族に対し、当局がテロ対策を名目に強制収容や強制労働、強制不妊を行っているとされる疑惑。今年1月、ポンペオ国務長官(当時)が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定した。
2014年4月、同自治区ウルムチ駅前で爆発事件が起き、習近平国家主席は翌月の重要会議で「テロ活動への厳格な打撃」を指示。欧米メディアが強制収容所の存在を指摘すると、中国当局は18年10月、「職業技能教育訓練センター」を法制化した。米国の中国問題に関する超党派の連邦議会・行政府委員会(CECC)は昨年12月の報告書で、累計で最大180万人が強制収容された可能性があると指摘。英BBC放送は今年2月、収容所で組織的な性的暴行を受けたとするウイグル族女性の証言を報じた。同自治区報道官は1月、職業訓練は19年10月に終了したと発言した。