《新疆ウイグル自治区潜入ルポ》日本で撮影した反中デモの写真が見つかりジャーナリストがスパイの疑いで拘束、拷問具が置かれた取り調べ室で睡眠禁止の尋問

NEWSポストセブン 2025.08.19 06:59 週刊ポスト

日中関係に緊張が走るなか、中国政府による強制労働や人権侵害の疑いがある新疆ウイグル自治区の統治にも国際社会から厳しい目が向けられている。統制下では何が起きているのか。『一九八四+四〇 ウイグル潜行』を上梓したジャーナリストの西谷格氏は、現地で想像を絶する困難に直面した。西谷氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む
* * *
新疆はどこへ行っても警察やパトカーの数が尋常でないほど多く、市街地を歩いているとおよそ5分おきに遭遇した。機動隊や軍隊並みの重装備も珍しくなく、装甲車や自動小銃も投入されていた。
滞在中は、警察から数えきれないほど取り調べを受けた。空港の詰め所に連行され、あるいは深夜1時半にホテルのドアをノックされた。いずれもスマホの写真フォルダを見せて、今後の渡航先を丁寧に伝えれば、短時間で調べは終わった。思ったより大丈夫そうだと気楽に考えた私は、新疆から国境を越えて隣国カザフスタンへ抜けようとした。だが、ここで大変な事態に陥った。
出国審査の列でパスポートを提示すると警察に足止めされ、厳重な荷物検査を受けた。そして、警察が私のスマホの写真フォルダを隅々までチェックすると、日本で撮影した「白紙革命(反中デモ)」の写真が見つかったのだ。
「この写真を持つことは、中国では違法だぞ」
すぐに別室に通され、ガラス張りの留置所に入れられた。ドアの向こうでは、監視員がボディカメラをこちらに向け、常時撮影している。
「大丈夫だ。すぐ終わる」
そう言われてから3時間ほどが経過し、取り調べ室へと連れていかれた。
大きな事務机の前には「タイガーチェア」と呼ばれる拷問具が置かれていた。四肢を金属リングで固定し、身動きを奪う道具だ。幸い、私はその隣に置かれた事務椅子に座るよう命じられたが、尋問の最中には、警察がこれ見よがしにチェアの足輪を開くこともあった。
「お前には『国家安全危害罪』の疑いがある。最高刑は無期懲役だ」
耳を疑うような罪名を告げられ、長時間の取り調べが始まった。尋問の合間は放置される時間も長く、留置所のベンチに腰掛けながら死をも覚悟した。取り調べは、深夜から明け方にかけて苛烈を極めた。
「本当のことを言え。もし嘘を吐いたら、これだぞ!」
そう言いながら、黒いジャケット姿のベテラン刑事は手のひらを振り上げた。「お前、この紙を食えるよなあ」とA4用紙を口元に近づけて来ることもあった。

西谷格氏が見た拷問椅子(人権団体「CHINA CHANGE」のサイトより)

「お前は反中組織のスパイではないのか?」

弁護士を呼んで欲しい、日本大使館にも連絡を取りたいと伝えたが、「今は駄目だ」と一蹴された。「日本人ジャーナリスト、新疆で拘束」とニュース速報が流れることを予見し、ネットでバッシングされるだろうと想像した。

取り調べの合間には何度か激辛の中華弁当を出されたが、ほとんど喉を通らない。睡眠を禁止された状態で、エンドレスに尋問を受けた。次第に後頭部が痺れるように痛み出し、視界が揺れて平衡感覚すら保てなくなった。苦痛を訴えると「立て」と言われ、突然背中をパンパンと叩かれた。反射的に足を踏ん張った。

「大丈夫そうだな。続ける。水さえ飲んでいれば、人間はそう簡単に倒れないんだ」

いつ、どこで、誰に会い、何を聞いたのか。そもそも、何のために新疆に来たのか。渡航費用はどこから出ているのか。警察たちは、こうした質問を何度も繰り返し、私が少しでも言い淀むと激しく詰問した。

やがて「お前は反中組織のスパイではないのか?」と疑いをかけられ、否定すると「そうでないことを証明しろ!」と迫った。私は、この旅行はすべて個人で計画し、誰の依頼も受けていないと繰り返すほかなかった。

拘束が24時間を超えると肉体と精神はボロボロになり、離人症のような症状が出始めた。やがて一区切り付いたと思しきタイミングで、突然調書にサインするよう求められた。熟読していると「早くしろ!」と急かされ、供述内容が違うと訴えても、却下された。

「サインするのか、しないのか。しないともっとひどいことになるぞ」

水分補給やトイレも禁止され、私はどうすることもできず、やぶれかぶれになって自分の名前を書き殴った。続いて「警察の態度は紳士的で、私は十分な休息を与えられました」との一文にも同意せよと命じられた。

サインするとようやく睡眠が許可され、一眠りして起こされると、唐突に「もう行っていいぞ」と30時間ぶりに外に出た。カザフスタンに着いてから数日間は抑鬱状態になり、寝具のなかに潜り続けた。

渡航を振り返ると、新疆ウイグルとはつくづく特殊な土地なのだと気付かされる。私の体験も含めて日本から見ると恐ろしい面があるのは事実だが、中国とはかくも複雑で、計り知れない国なのだろう。

前編から読む
https://www.news-postseven.com/archives/20250819_2059111.html

在日ウイグル人証言録

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