ウイグル人監視カメラに「日本企業の部品」の衝撃
- 2023/2/27
- 活動報告
東洋経済 2023/2/24
在日ウイグル人によって設立された「日本ウイグル協会」と人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」は1月19日に記者会見を開催。中国の監視カメラ大手「ハイクビジョン」(杭州海康威視数字技術)製の監視カメラを分解して調査したところ、日本メーカー7社の部品が使われていたと発表した。
中国の新疆ウイグル自治区ではウイグル人やカザフ人などのイスラム系民族を治安当局が恣意的に拘束し、施設に収容したうえで拷問や性的虐待、強制労働が日常的に行われていると、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際人権NGOや同自治区から海外に逃れた住民が指摘してきた。2022年8月には国連人権高等弁務官事務所が報告書を発表し、そうした人権侵害について「人道に対する罪に該当する可能性がある」と言及している。
ソニーグループなど7社の部品が組み込まれていた
国際人権団体などによれば、新疆ウイグル自治区では治安当局が「テロ対策」と称して町中の至るところに監視カメラを設置し、住民の行動を日常的に監視している。
2022年5月に流出した「新疆公安ファイル」と称される収容施設の内部などを撮影した画像をアメリカの映像セキュリティ企業が分析したところ、ハイクビジョン製の監視カメラが施設内に設置されていることが判明。同社製のカメラの内部を調査した日本ウイグル協会は、日本メーカーの部品が監視カメラに組み込まれていたと明らかにした。
日本ウイグル協会によれば、部品供給が判明した日本メーカーは、ローム、TDK、旭化成エレクトロニクス、ザインエレクトロニクス、ソニーグループ、セイコーエプソン、マイクロン ジャパンの7社。
日本ウイグル協会が新疆ウイグル自治区で住民監視に使用されていたものと同じシリーズのハイクビジョン製監視カメラを入手したうえで、専門業者に分解調査を委託。部品に表示されていた型番などからメーカー名を特定した。日本企業のほかにも、アメリカや韓国、台湾企業の部品も含まれていたという。
そのうえで、同協会は日本企業7社に質問状を送付し、回答を求めた。だが、「マイクロン ジャパンを除く6社から回答を得たものの、販売代理店を通じて取引関係があることを確認したという1社(ローム)を除き、きちんとした調査を実施したとは思えない回答内容にとどまった」(日本ウイグル協会のレテプ・アフメット副会長)という。
東洋経済も7社に回答を求めたが、ロームは「日本ウイグル協会に回答した通りだ」と説明。ソニーグループやTDK、セイコーエプソン、旭化成エレクトロニクスの親会社である旭化成などはハイクビジョンとの関係について、「個別の取引については答えかねる」との回答にとどめた。
なお、ソニーグループは「人権を尊重し、関係法令も遵守している」とし、旭化成によれば「旭化成エレクトロニクスは旭化成グループ人権方針に則り、人権尊重に関し改善すべき事実があれば、速やかに適切な手段による是正措置を検討していく」という。
日本企業の回答は「きわめて不十分」
TDKは、「『TDKグループ人権ポリシー』に従い、サプライチェーン上の各種調査や監査、ステークホルダーとのコミュニケーションなどを実施している。その過程で人権に関して当社方針からの逸脱行為があると判断した場合には、是正に必要な措置を講じる」と回答。セイコーエプソンは「企業の社会的責任に関するセルフアセスメントを定期的に実施している」という。マイクロン ジャパンからは回答を得られなかった。
ロームは日本ウイグル協会に「ハイクビジョンとは直接の取引はないが、販売代理店を通じた製品供給の実績があることを確認している」と回答。そのうえで「当社部品が組み込まれた最終製品(監視カメラ)の購入者がどのような用途で使用しているかについては把握する方法がなく、認識していない」と述べている。
アフメット氏はこうした日本企業の回答内容は「きわめて不十分だ」と指摘する。そのうえで次のように語る。「ハイクビジョンは世界大手の監視カメラメーカーだ。代理店を通しているにせよ、日本企業と同社の間で数量などの条件を決めたうえで継続的に取引していることはほぼ間違いない」
ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子副理事長は、「日本企業は深刻な人権侵害に加担している重大性を認識すべきだ」と指摘している。
日本企業の対応の鈍さは、法整備の遅れとも関係がある。日本ウイグル協会などの調査結果への受け止めを聞かれた高市早苗経済安保担当相は2月3日の記者会見で、「日本の輸出貿易管理令では、アメリカのエンティティリストのように特定の企業を名指しして、ここに対しては製品を出さないといった法律の建て付けになっていない」と答えている。
他方、アメリカでは商務省が2019年10月に輸出管理規則に基づくエンティティリストにハイクビジョンを追加し、アメリカ製品の輸出を許可制にすることで、事実上の禁輸措置を講じている。その際に商務省は「新疆ウイグル自治区での人権侵害」を理由に挙げている。
日本の規定は「ガイドライン」止まり
フランスやドイツなどヨーロッパの主要国は人権デューデリジェンスの法制化を推進。域内でビジネス展開する大手企業などに実施を義務付けている。2021年9月にはヨーロッパ連合(EU)で新しい輸出管理規則が施行され、軍事利用される可能性のある民生品の輸出管理が強化されている。
日本では2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が制定し、人権デューデリジェンスの実施のみならず、説明や情報開示の必要性についても定められている。同ガイドラインではそのことについて次のように述べている。
「企業が人権侵害の主張に直面した場合、中でも負の影響を受けるステークホルダーから懸念を表明された場合には特に、その企業が講じた措置を説明することができることは不可欠である」
ただ、ガイドラインにとどまっていることもあり、多くの企業は「個別の取引であること」を理由に、情報開示に消極的な姿勢を示している。
このままでは、日本企業の取引が人権侵害を助長しかねない。
https://toyokeizai.net/articles/-/654596