ウイグル報告書 中国は公開を封じるな
- 2022/8/18
- ウイグル情勢
東京新聞 2022/8/17
ウイグル族に対する人権侵害を否定するのなら、国連による視察報告書の公表にひるむことはないはずである。ところが、中国はバチェレ国連人権高等弁務官による報告書を公表しないよう各国に圧力をかけたという。これでは、人権侵害の実情を覆い隠す意図があると非難されても仕方がない。
バチェレ氏は五月に中国を訪問し、新疆ウイグル自治区での人権侵害について現地を視察。八月末までに報告書を公表すると表明していた。ところが、ロイター通信が七月、中国が六月下旬からスイスにある各国の国連代表部に報告書を公表しないよう求める書簡を送っていると報じた。
中国外務省報道官はロイターの報道を受け「一部の国は新疆問題にかこつけて政治的な策略を行おうとしている」と反発したものの、報道内容は否定しなかった。
米国は「中国政府が二〇一七年以降、新疆で百万人以上を拘束した」と批判している。中国は一貫して「人権侵害はない」と反論しており、報告書を公表させないことでさらなる人権侵害批判をかわそうと企てているのだろう。
中国が送った書簡には「人権分野で、政治化と陣営間の対立に拍車がかかり、国連人権高等弁務官事務所の信頼性にひびが入る」と記されていたというが、非公表を求める身勝手な理屈に映る。
習近平国家主席は七月、新疆を訪問し「われわれの民族政策は良く、効果的だ」と自画自賛した。自国の主張の正しさを認めてほしいのなら、十七年ぶりに実現した国連の人権部門トップによる中国訪問の成果を懸念払拭(ふっしょく)の好機にこそすべきではないのか。
だが、そもそも報告書以前に、今回の調査自体が国連による独立性の高いものとは到底言えない。自治区滞在は二日間にすぎず、移動が制限され、記者の同行も認められなかった。中国政府は「バチェレ氏は少数民族の伝統の保護や生活水準向上を体感した」と宣伝に努めるが、バチェレ氏は視察後に「今回の訪問は調査ではない」と発言。現地の状況把握が十分にできなかったことを認めた。
それでも報告書は人権侵害の実態究明の一助にはなろう。期限である今月末までに公開すべきだ。中国の圧力に関し、国連はまだ反応を示していないが、現地視察時の干渉の有無など「調査」の詳細な実情も明らかにすべきである。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/196426