西日本新聞 2022/6/27
【北京・坂本信博】中国当局が新疆ウイグル自治区で少数民族に不妊処置を強要してきた疑惑を巡り、欧州に亡命した新疆出身の少数民族女性2人が子宮内避妊具(IUD)を強制的に装着させられた体験を西日本新聞に語った。当局に隠れて避妊具を外したものの、繰り返し強要され計3回装着させられたと証言。「拒めば警察に捕まる」と脅され、50歳で不妊手術を強いられたことも明かした。
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中国政府は不妊処置について「住民の自主的な選択」と強調するが、証言からは強制的な処置の実態が浮かび上がった。新疆ではウイグル族への統制が強まった2016年以降、不妊処置件数が急増し出生率が激減した。繰り返し処置を強要する背景には、地方政府が処置件数を積み上げ、実績として中央にアピールしたい狙いもうかがえる。
オンライン取材に応じたのは区都ウルムチ市出身の元小学校教員で、19年にオランダへ亡命したウズベク族のケルビニュール・シディクさん(53)。1993年に娘を出産し、翌年も妊娠したが、当局の指導で中絶をさせられIUDを装着された。子どもが欲しかったため、99年に自主的にIUDを摘出。しかし当局の指導は徹底していた。
「18~50歳の女性は全員、指定病院で健診を受けてください」。2017年、交流サイト(SNS)の一斉送信で当局から通知が届いた。病院に行くと、再びIUDを装着された。出血がひどく、看護師に頼んでこっそり外してもらったが、18年に再び健診名目で集められ、IUDを付けられた。出血が止まらず入院を余儀なくされ、結局、器具は取り外された。
3度目の通知が来たのは19年春。対象年齢は18~59歳に広がり、今度は卵管結紮(けっさつ)手術を求められた。「私はもう50歳ですよ!」と拒否したが、当局からは「(拒めば)警察署に行くことになる」と告げられた。「断れば家族も拷問を受け、収容所に送られる」。手術以外の選択肢はなかった。
病院には、各居住区から集められた女性が100人以上列をなし、4時間待たされた。地下の手術室で、年老いた漢族の女医に麻酔を打たれ、目が覚めると手術は終わっていた。大量の出血でめまいがする中、不妊手術済みの証明書を渡された。「あの時の医師の顔は忘れられない。あまりにも平然としていたから」。19年10月、オランダに暮らす娘に会う名目で出国し、そのまま亡命。今なお体調不良が続いているという。
カザフスタンとの国境に近いグルジャ市出身の音楽家で、現在は英国で暮らすウイグル族のラヒマ・マフムトさん(51)は1995年に第1子を出産後、新疆北部のカラマイ市でIUD装着を強要された。人口抑制策は2016年以降に徹底され「子どもを1人産んだ女性を警察官が医療機関に連れて行ったり、警察署の横の臨時診療所で不妊処置を受けさせたりするようになった」と語る。
ウイグル族が2人目を生むことは制度上認められていたが、周囲では第2子が病院で死産となる例が相次いだ。「妹も出産前まで全く異常がなかったのに2人目は死産だった。同じ時期に出産した2人の女性も死産になった」と証言した。
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