ウイグル人女性に募る焦り 兄が自治区で拘束
- 2022/4/27
- ウイグル情勢
産経新聞 2022/4/26
ウクライナ危機に世の中の関心がシフトする中、中国当局に兄を拘束されたウイグル系日本人女性が焦りを募らせている。兄は5年前に新疆ウイグル自治区の収容所に入れられた。中国政府は2019年後半に収容所を閉鎖したと主張するが、安否は不明だ。女性は兄の解放のため、日本社会の後押しを期待しているが、中国の諸民族迫害に日本国内の関心は薄れつつあり、懸念を深めている。(奥原慎平)
「地球に住む一人としてウクライナを応援する。でも、ウイグル人もひどい状況にある。中国にいる家族とは本当のことは話せず、兄の安否も分からない。私たちの苦しみは誰も分からない」
平成22年に日本に帰化し、東京都内で暮らすウイグル人女性のレイハンさんはこう述べ、絶望感をにじませた。
兄で教員のエイサジャン・アブライテイさん(46)は、2017年6月9日、勤務先の中学校から警察に連行されたという。家族が警察署や役場に確認しても行方が分からなかったが、18年6月に自治区カシュガルの収容所に収監されたことが分かった。
エイサジャンさんは将来は日本で働こうと考え、日本語を学び、学生時代から長年、日本人相手に自治区で観光ガイドを務めていた。趣味のギターで小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」を奏でた。
きょうだいで収監されたのはエイサジャンさんだけではなく、姉も2年間収容されたという。解放された姉の姿はやせ細って、今では愛用していたウイグル伝統のスカーフも着けなくなった。
レイハンさんは自治区で暮らす家族と電話や通信アプリ「微信(ウィーチャット)」で、エイサジャンさんについて話すこともできない状況が続く。ほかの在日ウイグル人と同様、自治区の家族らは中国当局の盗聴を警戒し、機微な話題には触れられないからだ。
レイハンさんは在日中国大使館に兄の所在を何度も問い合わせたが、大使館側はレイハンさんが日本に帰化したことを理由にまともに対応しようとしない。外務省にも相談したが、昨年8月に「中国側に伝えたが回答は来ない」と連絡があって以来、進展はない。
エイサジャンさんは自慢の兄だ。自治区で兄と同じ学校に進学するたびに、校内での兄の評判を聞き、頼もしさと誇らしさを感じていた。警察に拘束されるようなトラブルを犯す人物ではなく、実際に自治区で兄の裁判は開かれていない。
兄が長期収容される理由に推定されるのが、日本人向けのガイドを長く務めたことだ。中国当局は外国人との交流関係が疑われるウイグル人は警戒し、収監対象にする傾向があるという。
レイハンさんは年明けや春節(旧正月)、国慶節(建国記念日)などの節目に兄が解放されるとの期待を抱いては、裏切られた。今年に入り、レイハンさんは名前と顔を出し、取材に応じるようになった。日本の世論を喚起し、日本政府が中国当局に圧力をかける以外に兄の救出は実現しないと思ったからだ。
だが、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻によって報道はウクライナ一色に染まった。ウイグル人の窮状に関心が薄れつつある。3月の北京冬季パラリンピック閉幕後に予定された中国の人権状況を非難する参院決議の動向も宙に浮いたままだ。
「ウイグル人は体は生きているが、心は死んでいる状況。普通の生活に戻りたい。世界は戦争犯罪者だとロシアのことを怒っているが、中国も同じだ。ウイグル人は世界に悲しみを伝えられずに殺されている」
外務省は産経新聞の取材に、エイサジャンさんの消息は中国当局に確認したが、回答はないという。
https://www.sankei.com/article/20220426-IN7O7ECKTNJIJL4YMAMZH4X7HE/