子供の名前を自由に付けられない、家の中でもウイグル語は禁止…中国政府による“ウイグル人弾圧”のヤバい実情

文春オンライン 2021/11/3

『ジェノサイド国家中国の真実』より #1
いまだ解決の糸口が見えない、中国による新疆ウイグル自治区でのウイグル人への弾圧問題。国際社会で問題視され始めたが、習近平政権が推し進める「ウイグル人根絶」政策の実態をまだ知らない方も多いだろう。

ここでは、日本ウイグル協会会長の于田ケリム氏、南モンゴル・オルドス高原生まれで静岡大学人文社会科学部教授を務める楊海英氏による『ジェノサイド国家中国の真実』(文藝春秋)の一部を抜粋。にわかには信じがたい弾圧の実情を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

弾圧者も弾圧される
于田 ウイグルでの弾圧がさらに厳しくなった一つのきっかけは、チベット自治区共産党書記としてチベット人弾圧で「成果」を上げた陳全国が、2016年に「新疆ウイグル自治区」の党書記に就任したことがあります。

彼がまず行なったのは、ホータン地区の党・政府責任者97名を免職処分にすることで、処分対象のほとんどはウイグル人でした。「タバコを吸ったこと」が理由ならまだしも、「宗教指導者の前でタバコを吸うことを躊躇った」として懲戒免職された人もいます。

楊 宗教的規範を守っているとして、処分の対象になったわけですね。

于田 ウイグルでは、公安関係者も弾圧の恐怖に晒されています。ホータン、カシュガル、ウルムチなどの公安局幹部が次々に拘束されました。とくにウルムチ市公安局のカディル・メメット元副局長とジュレット・イブラヒム前副局長などは、ウイグル人を冷酷に弾圧する側の人物として知られていたのに、2019年に相次いで拘束されました。詳細は不明ですが、強制収容所の内情などを知り過ぎていたからだろうとも言われています。

もともと「新疆ウイグル自治区」と言っても、形式的に自治区主席がウイグル人というだけで、党書記を始め自治区幹部の多くは漢民族です。

楊 その主席にしても、「両面人」のウイグル人が共産党に指名されるわけです。

于田 ですから、トップと言っても、発言内容は党が決めるので、発言権などありません。

楊 モンゴルも同じです。自治区レベルだけではなく、下級単位の自治州、自治県、自治郷に至るまで、「党委員会書記」は、必ず漢民族です。地方政府機関では、「正職」は漢民族、「副職」は少数民族に決まっています。稀に漢民族の副部長や副課長がいると、「お前、少数民族か」と冗談を言われる。それぐらい徹底しています。

于田 私が大学にいたときは、珍しく大学院の党書記がウイグル人でしたが、一見、漢民族の大学院長より地位が高いように見えても、実際は、ウイグル人の方が地位が低く、自分では何も決めることができませんでした。

楊 名目上の地位があっても、実権を与えないんです。

新疆で第一に感じたのは、ウイグル人がすっかり気力を失っていることでした。あまりにも長期間、植民地的な抑圧政策を受けてきたために、やる気を失くしているんです。

私などは「なぜ漢民族に抵抗しないんだ! 殴られたらやり返せばいいじゃないか!」と言うのですが、「いやいや、とても無理だ」という反応で、どこか暗いというか、非常に鬱屈したものを感じました。それだけ徹底的に弾圧されてきたということです。個人で奮闘したところで、すぐに逮捕、投獄され、テロリストのレッテルを貼られるだけ。そういう諦めのようなものも感じました。

公共空間での中国語の強要
于田 自治区の会議では、上にウイグル語、下に中国語で掲示が出ていましたが、今はウイグル語の掲示はないかもしれません。新疆大学のロゴマークも、ウイグル語と中国語の大きさが同じぐらいでしたが、ウイグル語がだんだん小さくされて、やがて削除されてしまいました。その後、ウイグル語表記は復活はしたのですが、元は英語の「ユニバーシティ」を意味するウイグル語だったのに、中国式の「大学」に変えられました。

楊 内モンゴルでも、2020年あたりからモンゴル語の看板が大量に外されて、書店からは、モンゴル文化やチンギス・ハーン関係の本が姿を消しています。建物には「公共の場につき、中国語を使いなさい」というスローガンが掲げられて、公共の場でウイグル語やモンゴル語で喋っていると、「あいつは信頼できない。減点だ」ということになります。

于田 まさに「『内心』で中国政府に反対している民族主義者だ」ということになるわけです。

「中国共産党」は、かつてはウイグル語式で「ジュングォコムルスパルティ」と言っていましたが、今では中国語式で「チュングォゴンチュワンダン」と呼ぶようになりました。

楊 「中国」は、ウイグル語で「ジュングォ」と言うのに、「チュングォ」と言わなければダメになったんです。「キタイ」というテュルク語系の言い方もありましたが、これもダメです。

「党」も、「パルティ」というウイグル語ではなく、「ダン」という中国語読みにしろ、と。以前はいかにも中国的な用語は中国語で発音しろということでしたが、今から見れば、まだ序の口で、その後、全面的に中国語化が進められたわけです。

子供の名前も自由に付けられない
于田 いまの新疆では、子供の名前も自由に選べません。「モハメッド」といったイスラーム色の強い名前は、明確に禁止されています。しかも名前に使う漢字にも制限があります。

楊 少数民族の名前だと、どうしても漢字は当て字になるのに、そこで「この字を使え」と限定される。文革期の南モンゴルでもそうでした。モンゴル人で「衛東(=毛沢東をまもる)」「東風(=西側に勝つ)」「文革」といった名前だと、文革期の生まれだとすぐに分かります。

于田 町や通りの名前も、ウイグル語名から中国語名に変えられました。

楊 中国人は、少数民族の言語による地名があるのに、すべて中国語に変えてしまう。元の地名の発音は中国人には難しいし、そもそも発音を学ぶ気すらないんでしょう。

内モンゴルでは、「盟」や「旗」という行政組織名も「市」に変えられ、「ジェリム盟」は「通遼市」、「ジョーウダ盟」は「赤峰市」になりました。それが進歩のシンボルだと言うんです。

私の名前も、文化大革命の時代に「オーノス・チョクト」というモンゴル名ではいじめられるということで、中国名に変えられました。今の日本名の「大野旭」は、モンゴル名の「オーノス」に「大野」という当て字をして、「旭」はモンゴル名の「チョクト」を意味的に訳したものです。

于田 私の名前の「于田(ウダ)」は、ウイグルの地名です。ホータンの近くで、中国語では「ウーティエン」と読みます。本当はこの漢字は使いたくないのですが、日本への帰化を申し込んだ時に、「簡単な漢字を使っていただけますか」と言われて、この字にしました。

「ウダ」は、私の父の家族が生まれた場所です。私が死んでも、誰かが私の名前を検索すれば、新疆のホータン付近の地名が出てくるので、「この人は日本人ではなくウイグル人かな」と考えてくれるかもしれない。帰化したウイグル人は、皆、そんなふうに日本名をつけています。

例えば「和田」は、中国語読みでは「ホータン」になります。「アクス」は「白い水」という意味なので「白水」。天山山脈から取って「天山」という名前にした人もいます。

自分に縁のある土地の名を苗字にして、「自分たちの出自を忘れないでほしい」という思いで、子供たちに渡すんです。というのも、ウイグルでは、学校だけでなく、公共活動、集団活動でも、ウイグル語の使用が禁止されているからです。

「ホームステイ」という名の家庭内監視
于田 中国共産党の幹部が、ウイグル人の家庭に住み着いて「指導(監視)」することまでなされています。住民と「双親(親戚)」になり、住民の「宗教意識」や「共産党への忠誠度」を調べ、一人一人に点数を付けるんです。家族が収容所に入れられて若い女性だけが残った家に、漢民族の男性が「親戚」として寝泊まりするケースもあるようです。

まずは共産党として信頼できない人の家が優先対象なのでしょうが、漢民族の公務員の数は多いので、結局はすべてのウイグル人家庭に入ろうとしているように思えます。

国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチも、「ウイグル人密集地域の一般家庭が、近年、政府幹部による定期的な『ホームステイ』の受け入れを強いられている」と報告しています。2017年のある官製メディアの報道によると、当局が職員100万人を農村へ派遣して、ウイグル人家族と「共に食べ、共に住み、共に労働し、共に学習」させると宣伝しています。

そこで皆が心配するのは、子供が何かまずいことを言ってしまうことです。子供の言ったことを理由に両親が拘束されたケースもあります。

楊 文革期の内モンゴルもまさにそうでしたが、子供が毛沢東の悪口などをうっかり言うと、子供も逮捕されるし、親も逮捕されるんです。

于田 公共空間ではなく、家庭内のプライベート空間なのに、「中国語で話せ!」と強要されます。「アッサラーム・アライクム」(アラビア語で「こんにちは」)と言うのも禁止です。「ごちそうさま」をウイグル語で言うこともできない。

https://bunshun.jp/articles/-/49292

在日ウイグル人証言録

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