《在日ウイグル人の吐露》「ジェノサイドを見過ごした漢民族も日本企業も共犯者」“ウイグル人弾圧”を見て見ぬふりする日本に抱く思い

文春オンライン 2021/11/3

『ジェノサイド国家中国の真実』より #2

一種の「巨大な暴力装置」として、少数民族への弾圧を強める中国に対して、欧米各国は非難の声を上げ始めた。一方で、日本は「見て見ぬふり」とも言える慎重な態度を取り続けている。在日ウイグル人の目には、漢民族の思想や日本の責任がどう映っているのだろうか。

ここでは、日本ウイグル協会会長の于田ケリム氏、南モンゴル・オルドス高原生まれで静岡大学人文社会科学部教授を務める楊海英氏による『ジェノサイド国家中国の真実』(文藝春秋)の一部を抜粋。新疆ウイグル自治区で生まれ、日本ウイグル協会副会長を務めるハリマト・ローズ氏を交えて行った鼎談のもようを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

弾圧は「一部の過激派」だけの責任ではない
楊 現在のウイグル人弾圧は、文化大革命期に内モンゴルで行なわれていたことと同じです。時代が違うだけで、やり方は同じなんです。私が『墓標なき草原──内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』などで書いたことについて、読者から「こんなこと、本当にあったんですか?」と驚かれますが、いずれも、本人が実名で名誉回復を政府に陳情した時の報告書に書かれていたことです。

文化大革命が終わってから、中国政府も「あれは間違いでした。一部の過激な人間がやったことです」と否定しました。しかし調査研究で当時のモンゴル人に話を聞くと、関わっていたのは「一部の過激な人間」だけではありません。文化大革命でのモンゴル人の粛清や虐殺には、共産党幹部、人民解放軍、漢民族の労働者や農民が動員されていました。

とにかく中国は、一種の「巨大な暴力装置」になっています。文革中だけでなく、今もそうです。内部に対しても、外部に対しても、「中国」という存在自体が常に「暴力」の形を取って現れています。

例えば、ウイグル人が酷い目に遭っていても、漢民族で「ちょっとやりすぎだよ」「やめるべきだ」と諫める人がいない。文革中にモンゴル人が大量虐殺に遭っていた時も、正義感のある漢民族の人が出てきて「やめろ」と言った事例は残念ながら見当たりません。だから虐殺が10年も続いてしまったんです。

ローズ ウイグル人が強制収容所に入れられていることは、新疆にいる漢民族の中国人全員が分かっています。しかし、それに反対する漢民族の話は聞いたことがありません。

例えば、新疆北部のタルバガタイは、もともと漢民族とウイグル人が共存していて、大きな揉め事もない町でした。それほど格差もなく一緒に暮らしていたのに、いまは漢民族とウイグル人が別々に暮らすようになりました。2013年に訪れた際には、どこへ行っても警備のポスターが貼られ、警察車両がずっと巡回していて、異様な雰囲気でした。

楊 私が2013年に新疆を訪れた時も、ウルムチで最も洗練されたマンション地区に住んでいるのは漢民族で、夕方になると、漢民族は上等な地区へ帰り、ウイグル人は、日干し煉瓦の旧市街地区へ帰っていて、完全に「住み分け」をしていました。「あの地区はウイグル人のテロリストの巣窟だ。あそこに行ったらウイグル人に襲われる。危ない地区だ」と分離を煽って、「ゲットー」をつくっているんです。

于田 考えてみると、ウイグル人学校と漢民族学校は、建物からしてまったく違っていました。2004年に南新疆の町へ行った時も、漢民族学校の建物の立派さに驚いたことがあります。

学校と家庭の双方で行なわれる「中華思想的な教育」
楊 漢民族の人は、エリートかどうかに関係なく、常に政府と一緒になる傾向があります。ウイグルやモンゴルに来た字も読めないような漢民族でも、知識人と同様に「ウイグル人は野蛮だ。モンゴル人は遅れている」と言います。

学校で「ウイグル人やモンゴル人は野蛮で遅れている」と教えているし、家庭でも同じような会話をしているのでしょう。漢民族の「中華思想的な教育」は、学校と家庭の双方で行なわれています。

2020年に、内モンゴルでモンゴル語教育の廃止に向けた政策が始まった時も、漢民族の人たちは、「今の時代、モンゴル語を話してどうするんだ」とか「モンゴル語は遅れた少数者の言語で、近代化に不向きだ」と平気で言うんです。

「では、あんた、明日から日本語を話しなよ。日本はあんた方より科学技術が進んでいるんだから」と言い返すと、「それは嫌だ」と。

東京でモンゴル人がデモをしても、漢民族の中国人がすれ違いざまに、「何を時代錯誤的なことをやってるんだ」と言う。

100万人以上のウイグル人が強制収容所に入れられても、「それは間違っている」と言い出す漢民族はほぼいない。海外にいる漢民族もほとんど発言していません。

ローズ 現在、欧米各国が「中国のウイグル弾圧はジェノサイドだ」と批判し始めましたが、やがてすべての歴史が明らかにされた時、「陳全国のせいだ」「中国共産党のせいだ」「習近平のせいだ」では済まされません。「ジェノサイドに反対せず、黙って見過ごした漢民族も共犯者だ」ということになると思います。

楊 これは中国全体の話ですね。共産党だけの話でもない。習近平は漢民族のなかの一人であって、これは「漢民族全体の問題」です。

于田 漢民族で、政府に反対する民主活動家でも、ウイグル人やモンゴル人やチベット人に対する政府の政策には同意する人が多いんです。

楊 日本では「中国共産党が悪い」と言われます。「悪いのは共産党で、中国人は悪くないんだ」と。しかし我々からすると、「漢民族の中華思想」そのものが問題なんです。

例えば、最近も、天安門事件(第一次、1976年)のリーダーの魏京生が、「ウイグル人は、皆、テロリストだ」と発言していました。彼は14年以上も中国の刑務所に収監され、その後、アメリカに亡命しましたが、「中国の民主化運動」の象徴のような人が、アメリカという民主主義の国で、ウイグル人を「テロリスト」呼ばわりしているわけです。これが「漢民族全体の問題」だと言わざるを得ない所以です。

日本の責任
楊 中国の過酷な仕打ちに対して、イスラーム諸国も黙っています。同じテュルク系民族のウズベキスタン、カザフスタンも黙っている。かつて中国のウイグル弾圧を「大量虐殺」と呼んでいたトルコのエルドアン大統領も、現在は、この問題で中国と衝突することは避けています。「イスラーム世界のリーダー」を自任するイランやサウジアラビアも、何も言わない。ウイグル人は「孤立無援」の状態にあります。

ローズ まずは口にだけでも出して、中国を非難してほしいです。人口300万人に満たないリトアニアが、ウイグルでの弾圧を「ジェノサイド」と認定しました。しかし、人口約1億3000万人で、世界3位の経済大国である日本の反応は、「注視しています」という程度です。

于田 ウイグル人の人口は、中国全体のわずか1%以下です。とは言っても、1000万人以上いるわけです。人口が1000万人に満たない国も、世界に数多くあります。ですから、人口の規模だけで問題を軽く扱っては、そうした国々を軽視するようなメッセージにもなりかねません。

ローズ 多くのウイグル人が日本で証言しています。まずはこうした証言を一つ一つきちんと調べてほしいです。私もNHKなどで証言してから、ウイグルにいる兄と連絡が取れなくなっています。妹たちもどうなっているのか心配です。

楊 2021年3月30日、公明党の山口那津男代表が、「わが国が制裁措置を発動するとすれば、(中国当局の)人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」と述べて、ウイグル問題を理由にした対中制裁に慎重姿勢を見せました。

公明党は、「日中友好政党」であっても、政権与党ですから、これは非常に無責任な言い方だと思います。国会議員には調査権がありますから、プロジェクトチームでもつくって、在日ウイグル人を調査すればいい。あるいは公明党として独自に調査をすればいい。その上で「人権侵害はない」と言うのなら、それはそれでいい。ところが、山口代表は、何の調査もせずに「証拠不十分」と言っています。

日本は「ジェノサイドの共犯者」になる前に行動を
ローズ まず第一歩として、欧米各国が「中国は悪い」と非難してくれました。日本がそれもしないのは、どうかと思います。

楊 これまで日本は、言わば「見て見ぬふり」をしてきました。中国の民族問題は非常に深刻で、悪化していることも分かっていたのに、さまざまな理由から、発言や関与を控えてきたわけです。

于田 日本は、イスラーム諸国と良好な関係を保っています。今のところ、強く発言してくれたのは欧米諸国ですが、もし日本がウイグルのために発言してくれれば、その声は、これまで以上にイスラーム諸国にも広まると思います。

また中国と地理的に近い日本がウイグルについて発言するのは、欧米諸国の発言以上に信頼度が高いものとなるはずです。ですから、日本が発言してくれることが非常に重要なんです。

楊 ウイグル人への弾圧は、欧米メディアが報じてから、日本でも取り上げられるようになりましたが、そもそも、こういう発言をする我々に対して、日本のメディアは、結構冷淡なところがあります。「反中の右翼に利用されるだけだ」と受け止められてしまうんです。しかし、「ジェノサイド」に右も左もありません。とくに「人権擁護」を標榜しているはずのリベラル派が、この問題を黙って見過ごすのは、おかしいと思います。

于田 日本の大手企業も同様で、ウイグル人の強制労働で作られた製品などを使い続けていたら、「ジェノサイドの共犯者」になってしまいます。

「自由」と「民主主義」の国で、世界のリーダーの一員である日本の皆さんに、ウイグルの現状を知っていただきたい。そして日本政府に対しても、勇気を持って明確な行動を起こしていただきたいと心から願っています。

https://bunshun.jp/articles/-/49293

在日ウイグル人証言録

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