「住民に予告なく46回も核実験を実施」だから中国人はウイグル自治区に近寄らない 「ここにいたら白血病になる」

PRESIDENT Online 2021/10/28

中国政府は、東トルキスタンに建設した核実験場で46回の核爆発実験を行っている。静岡大学教授の楊海英さんは「これからの核実験はいずれも周辺住民に予告せずに行われており、住民たちは核実験の事実を知らないまま生活している。漢民族は核実験の事実を知っているため、近づきたがらない」という――。(第1回)
※本稿は、于田ケリム、楊海英『ジェノサイド国家中国の真実』(文春新書)の一部を再編集したものです。

周辺住民に事前予告せず核実験を40回以上も実施
【于田ケリム(日本ウイグル協会会長)】中国政府は、東トルキスタンのロプノールに建設した核実験場で1964年から1996年にかけて、地表・空中・地下において延べ46回、総爆発出力(エネルギー)およそ20メガトン(1945年に広島に投下された原子爆弾の1000倍に相当する爆発出力)の核爆発実験を行ないました。

地表核爆発は12回、空中核爆発は11回、地下核爆発は23回にも達しています。しかし、いずれの場合も、周辺住民に事前に予告し、避難させるなどの安全対策は取っていません。それどころか、ウイグル人には、核実験自体知らせていないので、ほとんどのウイグル人住民は、核実験の事実も被害状況もいっさい知らずに暮らしています。

【楊海英(静岡大学教授)】1958年から青海省で原水爆工場の建設が始まっています。現地のモンゴル人、チベット人、トゥマト人を強制的に立ち退かせた跡地に工場が建設され、製造された原子爆弾が、新疆タクラマカン砂漠の東端にある「さまよえる湖」ロプノール湖畔に持ち込まれました。

あろうことか、かつてシルクロードで栄華を誇った「楼蘭王国」の地で、核実験が行なわれたんです。1990年代初期の現地調査でその近くを通った時、漢民族の人が「ここから早く出よう」と物凄く嫌がっていました。

私が「せっかく楼蘭に来たんだからゆっくりしよう」と言うと、「いや、核実験をしているから、ここにいたら白血病になって、髪の毛も抜けちゃう」と言うんです。そこで「あんたたちは食事に立ち寄るのも嫌がるのに、ウイグル人はここに住んでいるじゃないか! ウイグル人に核実験のことを知らせていないんでしょう!」と指摘して、激しい言い合いになりました。

優れた人物ほど弾圧のターゲットになる
【于田】ウイグル人のデモでは、「原水爆実験反対」だけでなく「民主選挙施行」「イスラームの産児制限撤廃」といったスローガンも掲げていたんですが、1988年にはウルムチで「民族教育を守ろう」という大規模なデモが行なわれました。

現在の「世界ウイグル会議」のドルクン・エイサ総裁もその場にいて、学生たちをリードしたのですが、結果的に通っていた新疆大学を退学させられ、ドイツへの政治亡命を余儀なくされました。

【楊】優れた人物ほど、弾圧のターゲットになるわけですね。

【于田】トルグン・アルマスというウイグル人学者も徹底的な弾圧に遭いました。1986年から1989年にかけて、ウイグルの歴史に関する本を三冊出版した後、中国当局の監視下に置かれ、何も書くことができない、何も発言できない状態に追いやられたんです。

トルグン・アルマスは、ウイグル人にとって大事な学者です。私はウイグル人として誇りに思います。彼の三冊の本のおかげでウイグル人が民族意識に目覚めて、「ウイグル人の唯一の道は独立である」ことを証明したからです。

しかも、いわゆる中国の二四史からの引用で、その主張を裏付けています。彼の三冊の本は、ウイグル人の民族運動の原動力となる重要な研究書です。それに対して漢人が書いた「ウイグル人の歴史」は嘘であり、「中共の暴力」の表現でしかありません。

彼が弾圧されたことは、ウイグル民族の歴史はウイグル人が書くのが自然で当然の権利であるのに、その権利を中国政府によって奪われたことを意味します。

ウイグル人学者の歴史書を徹底的に批判
【楊】「ウイグルの三冊の本事件」と呼ばれる事件ですね。1992年6月に、現地調査で新疆を2度目に訪れた際、とても険悪な雰囲気になっていました。

「どうしたんだ?」と聞いてみると、「今からウイグルの三冊の本を批判するキャンペーンをやるんだ」と言うんです。トルグン・アルマスが書いたのは『匈奴きょうど簡史』『ウイグル古代文学』『ウイグル人』という三冊の本です。

『匈奴簡史』は、紀元前三世紀頃にモンゴル高原に初めて成立した遊牧国家である「匈奴」の歴史は、「ウイグル」につながるんだという内容の本です。現在の学界からすると、少し飛躍もあるのですが、匈奴は、中国古代の単なる少数民族に留まらず、世界帝国をつくり、西へ行ってフン族になった、と書いています。

『ウイグル古代文学』では、ウイグルは、元来、文学が非常に豊かで、口承文芸が発達していた、と書いています。『ウイグル人』では、ウイグル人は中華民族ではない、万里の長城以北は中国の領土ではない、とはっきり書いています。

この三冊の本に対して、中国科学院と中国社会科学院が一緒になって、「マルクス主義民族観、社会主義歴史観に合わず、祖国分裂と汎テュルク主義(*1)」として激しく批判するキャンペーンを始めたんです。我々の調査団を迎え入れるための会見の席上でも、「我々は今、こういう批判をやっているんだ」と、いきなり話し出しました。

ひとつの地域だけで年間250人が強制中絶された
こちらは、なぜこういう学術書が批判されるのか、皆目分かりません。ウルムチの本屋へ行っても、この三冊は売っているはずがない。そこで、この三冊を批判する本(『「ウイグル人」等三冊の本の問題に関する討論会論文集』)を購入しました。

「こんな本は買いたくないな」と思いながら買ったのですが、中国一流の御用学者たちが20人も動員されて、大々的に批判を展開しています。思想的にも、政治的にも滅茶苦茶だと思いました。

トルグン・アルマスのような本を書けば、すぐに「民族分裂主義者」と見られてしまうんです。1960年代の内モンゴルでも、まさに同じことが起こりました。

【于田】1990年4月に、「南新疆」のアクト県バリン郷という村で、中国当局による「産児制限」「計画出産」に反対する歴史的な武装蜂起が起きています。1989年の1年間でバリン郷だけで延べ250人のウイグル人女性の子供が強制中絶されました。こうした「計画出産」に抗議し、漢民族の大量移住の禁止を求めて蜂起したんです。

その他、ウイグル人に対する政治弾圧・民族差別の撤廃と、民主化を求める要求も掲げられました。ただし、この抗議は、徹底的に弾圧されて、アムネスティ・インターナショナルによると、約6000人が「反革命罪」で訴追されています。

2年間で自然人口増加率が83%も低下した地域も
【楊】かなり以前から、中国政府による「産児制限(バースコントロール)」は始まっていたわけですね。それは南モンゴルも同じです。当時の中国は「一人っ子政策」でした(その後、急速な少子化を危惧し、2016年に「2人出産」が容認され、2021年には「3人出産」も容認)。

ただ少数民族は、子供は3人まで認められていました。これに対して、漢民族も少数民族も、非常に不満だったんです。漢民族からすると、「なぜ少数民族だけ3人まで許されるんだ」となります。しかし、人口規模からすると漢民族の方が圧倒的に多い。

ですから、少数民族からすると、「膨大な漢民族の人口こそ問題であって、なぜ少数民族の我々が犠牲を払って、産児制限をしなければならないのか」となるわけです。

現在のウイグルでは、もっと深刻な事態が起きています。2019年春頃から、ウイグルでの強制収容所、強制不妊手術、強制労働などの悲惨な実態が国際的に報じられるようになりましたが、一連の報道の根拠になったのは、ドイツ出身の人類学者エイドリアン・ゼンツ氏(現在、アメリカ在住)の学術研究です。

そのゼンツ氏は、『文藝春秋』2021年9月号で、こう指摘しています。

「(新疆ウイグル自治区の)カラカシュ県では2018年から過去2年間で自然人口増加率が83%も低下しました。従来の計画生育政策の規制を上回る厳しさで出生抑制措置をおこなっていることは明らかでしょう。

着々と進んでいる「民族殺戮計画」
ほかに2018年には、中国国内でおこなわれたIUD(子宮内避妊具)装着手術の8割が新疆でなされたことがわかっています。不妊手術も大規模に実施されています。

なかでも、私が見つけた最も残酷なデータは、2019年にホータン市において、女性524人にIUDを装着、さらに1万4872人に不妊手術を施すとの方針が記された公文書でした。

隣のグマ県と合わせて、1年間に出産可能な年齢(18~49歳)の女性の14~34%に不妊手術をおこなうという目標も出されています。背景には、再教育キャンプへの収容政策も関係しているでしょう。男性の収容対象者は家長が多い。家長がいない状態であれば、残された夫人や娘に不妊手術を強制的に実施することも容易になります」

ゼンツ氏の研究が信憑しんぴょう性を持っているのは、その多くが中国側の公式資料にもとづいているからです。共産党独裁体制下の「計画経済」のように、こうした「不妊措置」も「計画的」に実施されているわけです。

「ジェノサイド条約」には、「集団内の出生を妨げることを目的とした措置を課す」ことが「ジェノサイド」の定義の一つとして明記されていますが、そのままこの定義に当てはまるような「民族殺戮計画」です。

https://president.jp/articles/-/51188

在日ウイグル人証言録

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