「故郷の家族は中国のどこに」、在外ウイグル族必死の探索

ロイター 2021/9/26

[ウルムチ(中国) 22日 ロイター] – ジバ・ムラートさんが最後に母親のグルシャン・アッバスさんに会ったのは2016年、場所は米首都ワシントン近郊のロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港だった。故郷の中国・新疆ウイグル自治区では、少数民族が抑留されているとの報道が出始めており、ムラートさんは母親に戻らないよう懇願した。

「心臓の鼓動が激しくなった。行かないでと母に訴えた」とムラートさんは言う。「すでに収容所が建設されつつあるとの話も耳に入っていたが、母は自分なら安全だと考えていた」

引退した医師であるグルシャンさんからは、帰国後まもなくパスポートが没収されたと知らせがあったが、詳細は話してくれなかった。毎日のビデオ通話は緊迫感を増し、グルシャンさんが頭を振り、はっきりと理由は告げずに泣くこともあったという。

「とても後ろめたい思いがする。母は私にメッセージを送ろうとしていたのだ」

ロイターによる電話インタビューで、ムラートさんはそう語った。

母親と最後に話したのは2018年9月10日だという。その日以降、グルシャンさんは電話に出なくなった。

グルシャンさんが消息を絶つ6日前には、その姉妹で米国在住ウイグル活動家として有名なルーシャン・アッバスさんが、ワシントンのシンクタンクハドソン研究所で行われた公開シンポジウムで、新疆で展開されていた抑留キャンペーンについて講演していた。ムラートさんとルーシャンさんは、この講演とグルシャンさんの失踪の間には関連があると信じている。ロイターではこの点について独自の裏付けを得られなかった。

人権擁護団体や国連専門家による推計では、2016年以降、収容所に収容されたウイグル族をはじめとする少数民族は100万人以上に上るという。中国側は、収容所は宗教に基づく過激主義と戦うための職業訓練センターであり、各収容所は2019年後半に閉鎖されたと説明している。

ムラートさんを含む8人のウイグル族が、ロイターの取材に対し、新疆で拘束され、その後の訴追され収監されている親族について何年も情報を求め続けていると証言した。

新疆ウイグル自治区政府の広報担当者は北京で今年行われた記者会見で、中国は親族と連絡の取れない在外ウイグル族を支援する用意があり、中国大使館・領事館に連絡して支援を求めるよう呼びかけていると強調した。

ロイターの取材に応じた親族らによれば、抑留キャンペーンの開始からほぼ5年が経った今、そうした支援を要請は無視され続けてきたと語る。ロイターでは、彼らの説明のすべての面について、独自の裏付けを取ることはできなかった。

「領事館に電話すれば済む話だというのなら、こちらからの電話を取ればいいのに」とムラートさんは語る。ムラートさんは、2020年8月5日に在ワシントン中国大使館宛てに送った、母親の所在についての情報提供を求める手紙のコピーをロイターに提供した。だが、何の回答も得られなかったという。

中国側は、拘束された親族についての情報を求める動きを妨害していることを否定している。

同自治区政府のイスマイール広報官は2月に北京で行われた記者会見で、「海外在住の新疆出身者の一部は、虚偽か強要により、いわゆる『消息不明』の親族についての嘘をでっちあげている」と述べた。

中国外務省は、中国国内での抑留者の在外親族との連絡に関する方針についてはコメントを控えるとして、新疆の当局に取材するようロイターに促した。

中国政府は、2016年以来の「反過激主義」キャンペーンで一般的に用いられた罪名であるテロまたは民族的憎悪扇動の容疑により投獄された人数を公表していない。また、収容所に抑留されている人数も明らかにされていない。

抑留された親族を持ち、ロイターの取材に応じたウイグル族8人のうち、米国在住者は6人。いずれも在ワシントン中国大使館への訴えに対する回答はなかったと話している。

抑留中の6人のうち5人については、所在や刑期についての公式の情報が一切知らされていないという。

親族やロイターがチェックした限りでは、中国司法当局のウェブサイトでは、抑留された人々のいずれについても裁判や判決の公開文書は見つからない。

<所在不明>

ムラートさんによれば、彼女の母親の逮捕について唯一公式に確認が取れたのは、2020年に北京で行われた記者会見における中国外務省当局者のわずか1行のコメントだけ。それによると、グルシャンさんはテロリズムと「社会秩序を乱した」の容疑により有罪判決を受けたという。

ムラートさんによれば、それ以前に、グルシャンさんが懲役20年の判決を受けたとする信頼できる情報を非公式の情報源から得ていたという。刑期について中国側は公式には認めておらず、中国外務省と新疆ウイグル自治政府に問い合わせたものの、回答は得られなかった。

ロイターは5月、依然としてグルシャンさん名義で保有されているウルムチ市内の一家の住居を訪れた。玄関は警察が貼ったテープで封鎖されたままで、そこにはアルトゥシュにある警察署名が記されていた。アルトゥシュはウルムチから1000キロ離れたカザフスタン国境に近い地域だ。

ドアに貼られた告示には、「帰宅次第、地元の警察署に報告すること」と書かれていた。

アルトゥシュの警察署とも、住居を管理する地元の警察署とも連絡は取れなかった。またこの告示について新疆ウイグル自治政府と外務省にも問い合わせたが、回答は得られなかった。

ライハン・アサットさんの兄エクパルさんは2016年に拘束された。ウルムチから約670キロ離れたアスクで拘留されていることを認める公式の情報を家族が得たのは、4年も経ってからだった。

「八方手を尽くした。警察署や国の機関に片っ端から連絡して、何が起きたのか知ろうとした」と米国在住のライハンさんは言う。両親は今もウルムチで暮らしている。

一部の抑留者の親族によれば、中国はウイグル族の人権侵害に関する訴えの信憑性を貶めようとする取組みを公然と進めており、それが新疆で抑留されている親族について情報を集める重要な手段になっているという。

今年に入って中国当局は何十本もの映像を公開した。その中には、中国政府支持の声明を読み上げる抑留中のウイグル族の映像や、同じウイグル族の海外在住親族を批判したり、彼らに中国への帰国を懇願する家族の動画も含まれている。

ムラートさんは、そうした動画で母親の姿を目にすることになれば辛いだろうが、それでも嬉しいことだと話す。

「胸が張り裂けるような思いになるのは確実だが、それでも母が生きていることが分かれば、希望が持てる。今の時点では、母は生きていることを知りたいだけだ」

(翻訳:エァクレーレン)

https://www.reuters.com/article/china-xinjiang-relatives-idJPKBN2GK0AN

在日ウイグル人証言録

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