中国・ウイグル強制収容所の内側─催涙ガス、テーザー銃、教本

AFP 2018/12/30

【12月30日 AFP】(編集部付記)中国の新疆ウイグル自治区でウイグル人、カザフ人、キルギス人ら少数民族のイスラム教徒が大量に拘束され、過酷な環境の下で思想改造を強制されているとみられる問題に、国際的な批判と懸念が高まっている。現地での取材が厳しく制限される中、AFPは2018年10月24日、中国政府の公開文書を基に収容施設の運営実態に迫ったベン・ドゥーリー記者の記事を北京発で配信した。以下、当ウェブサイトで同25日に掲載した抄訳にカット部分の訳を追加した全訳版を、図解とともに公開する。

■楽しげに学ぶ研修生?
研修生たちが楽しそうに標準中国語を学び、職業技能を磨き、スポーツや民族舞踊といった課外活動に熱心に取り組んでいる──。国営の中国中央テレビ(CCTV)が10月中旬に放送した映像を見ると、中国の最西部・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)にある「職業訓練センター」は、あたかも近代的な学校であるかのようだ。

ところが、自治区南西部ホータン(Hotan)地区のある地方政府でこうした施設を管轄する部署は、今年、数度にわたって次のような物品を調達していた。警棒2768本、電気棒550本、手錠1367個、それに催涙スプレー2792缶。いずれも、教育と関係があるようにはとても思えない品目だ。

これらは、2017年初め以降、自治区内の地方政府が「職業技能教育訓練センター」の建設や運営に関連して発注した物品の、ほんの一例にすぎない。自治区全体では、センター向けの調達要求が計1000回以上行われている。

こうした施設に対して、今、国際社会から厳しい目が向けられている。国際人権団体は、施設の実態は政治的な「再教育キャンプ」だと批判し、ウイグル人やほかの少数民族のイスラム教徒が最大100万人収容されているとみている。

中国政府は、以前はこうした施設の存在自体を否定していた。しかし、国連(UN)や米国をはじめとする国際社会からの批判を受けて、施設が存在することは認めた上で、批判に反論する宣伝戦に転じている。

中国政府の主張はこうだ。センターは「自由な」教育と職業訓練を通じて、分離主義、テロリズム、宗教的な過激主義の拡散を防ぐためのものである──。

だが、AFPが入札や予算関係の文書、業務報告書など、公に入手できる中国の政府文書1500点以上を検証したところ、施設は学校どころか刑務所のように運営されていることが分かった。

■「つながりを壊せ、出自を壊せ」
政府文書が示すところによれば、こうした「職業訓練センター」の周囲には有刺鉄線が張り巡らされ、赤外線カメラも設置されている。内部では、催涙ガスや、テーザー銃などのスタンガン、「狼牙棒(ろうげぼう)」と呼ばれる、とげの付いたこん棒などを与えられた大勢の警備員が、「研修生」を厳しく管理している。

ある文書には、自治区トップの陳全国(Chen Quanguo)共産党委員会書記の次のような発言が引用されていた。いわく、センターは「学校のように教育し、軍隊のように管理され、刑務所のように警備され」るべきだ。

また、別の文書にはこう記されている。より優れた中国公民を生み出すために、センターではまず、入所者の「血筋を打ち壊し、基盤を打ち壊し、つながりを打ち壊し、出自を打ち壊さ」なければならない──。

■収容所数は180カ所超
AFPのまとめによると、新疆ウイグル自治区内にはこうした施設が少なくとも181か所存在する。

中国中央テレビの報道では、センターへの参加は自由意志に基づくものと紹介され、そこでは、そろいの制服を着た「研修生」たちが、標準中国語を学習したり、編み物や織物、パン焼きといった職業技術の研修を受けたりしていた。

ウイグル自治区にセンターが登場するのは2014年にさかのぼる。自治区内で死者を出す暴動が起きたことを受けて、地元当局が「テロリズム」に対する「厳打」と呼ぶ厳しい取り締まりに乗り出した年だ。

ただ、施設の建設に拍車がかかったのは2017年初めになってからだ。この時期に、ウイグル人が住民の大多数を占める自治区南部で、複数の地方政府が「焦点集団を対象とした集中教化センター」の建設加速を命じている。「焦点集団」とは、信仰を持つ人、貧しい人、教育を受けていない人、軍隊に入るのに適した年齢の男性ほぼ全員などを含められるあいまいな表現だ。

ほどなくして、新疆ウイグル自治区政府は「宗教的な過激思想」の管理に関する条例を公布した。

当局は、過激派はどこにでも潜んでいる可能性があると警告し、幹部らに対し、25の違法な宗教活動のほか、禁煙やテントの購入といった無害と思える行動を含め、75の過激主義の兆候に目を光らせるよう指示した。

「拘束すべき人物はできる限り拘束せよ」。幹部らはそうも命じられている。

■党中央から資金
その結果、拘束者が急増し、各地方政府は大急ぎで対応に追われたようだ。

センターの建設や運営には多大な費用がかかることから、2017年には自治区全体で司法当局の支出が爆発的に増えている。AFPの試算によれば、当初予算の少なくとも577%増に相当する30億元(約480億円)近くが投じられたもようだ。

自治区南部の複数の地方政府は、財源不足を、センター向けの特別な資金で補った。予算関係の文書によれば、資金の少なくとも一部は、中国の公安部門を取り仕切る党中央政法委員会から直接支出されている。

■「虎椅子」も発注
2017年4月ごろには、各地方政府が施設関係のさまざまな入札の公告を始めている。調達品目を見ると、確かに、机や椅子、エアコン、2段ベッド、食器といった、中国の一般的な大学の備品として違和感がないものもある。

だが、それだけではない。高度な監視システム、「研修生」の室内の様子を記録するためのカメラ、有刺鉄線、電話盗聴器、赤外線監視装置など、刑務所で使われるような機材も含まれているのだ。

センターはほかにも、警察の制服、暴動対応用の盾やヘルメット、催涙スプレー、催涙ガス、網を発射するネットガン、スタンガン、電気棒、警棒、やり、手錠、狼牙棒などを購入している。

さらに、少なくとも1カ所のセンターは、中国の警察が尋問対象者の身体拘束に用いる器具、通称「虎椅子」も注文していた。

自治区の区都ウルムチ(Urumqi)の党機関は、センター向けにテーザー銃の調達を緊急に要望する文書の中で、これらの機材は「職員個人の安全を確保する」ために必要だと訴えている。非殺傷武器については「通常の火器を使わなくてもよい状況で、偶発的な事故が起こる可能性を減らす」上で重要だとも指摘している。

■中国外務省「強い疑問」
AFPは自治区の地方当局に繰り返し取材を試みたが、本記事を公開するまでにコメントを得ることはできなかった。中国外務省の華春瑩(Hua Chunying)報道官は10月24日の定例記者会見で、本記事が明らかにした事実に疑問を呈する一方、内容を特に否定もしなかった。華報道官はAFP記者に次のように語った。

「あなたが(記事に)書いている状況が真実なのかどうかについては、強い疑問を呈しておきたい」「あなたには、中国当局がどう説明しているか、中国メディアがどう伝えているかを調べてもらいたい」

ウイグル人らの大量拘束をめぐり、中国に対する制裁を呼び掛けているマルコ・ルビオ(Marco Rubio)米上院議員(共和党、フロリダ州選出)は同日、AFPの報道を受けて、ツイッター(Twitter)で施設に関する中国側の説明に改めて疑念を示した。

「中国は世界に対して、新疆の強制収容所を職業訓練センターだと信じ込ませようとしている。しかし、警棒を2768本、電気棒を550本、手錠を1367個、催涙スプレー2792缶購入する職業訓練センターとは、いったいどんな職業訓練センターなのか?」

■定期的に「自己批判」
2017年末には、自治区で「上位の当局」から、各施設の運営を画一化するよう指示が出されている。複数の地方政府のウェブサイトによれば、新たに「職業教育訓練サービス管理局」が設立され、そのトップは刑務所や拘束施設の運営経験のある当局者が務めている。

ある地方政府の職業教育訓練サービス管理局の文書によれば、センターの入所者は標準中国語や党の主張に関する知識を週、月、「季節」単位で試験されるほか、定期的に「自己批判」を書くことになるとされている。

また、入所者はセンターで「スローガンを叫び、紅歌を歌い、三字経を暗記する」とも言及されている。紅歌とは中国共産党をたたえるものなど愛国的な歌、三字経とは儒教の基本的な徳目を説いた中国の伝統的な教育書のことだ。

入所者のファイルは集中管理されたデータベースに登録され、入所者は違反行為や成績によって分類されていた。

犯罪で服役していた人は、「信用できない者は信用できる場所に置く」という原則に従うとして、刑務所を出所後、直接センターに送り込まれていた。

一方、センターで良い成績を修めた人には、家族に電話することや、センター内の特別な部屋で家族と面会することが認められていた。

■各世帯から「最低1人」収容か
当局者には、入所者の家族の自宅を定期的に訪れ、家族に「反過激主義」について教示し、共産党への反発に硬化しかねない怒りの兆候が彼らにみられないかかどうか、チェックすることが命じられている。

ある地方政府の職業教育訓練サービス管理局が自局の義務について記した文書によれば、職業教育訓練サービス管理局はセンターに関して、「脱走」を防ぐなど、施設内で「面倒なこと」が起こらないように「絶対的な安全」を確保するものとされている。

各地方政府は、元服役囚や宗教的な過激主義の罪に問われた人に加え、各世帯の少なくとも1人に対して、最低でも1〜3か月間、「職業訓練」を受けさせるよう指示されていた。人口約2400万人の新疆ウイグル自治区で、貧困を軽減するというのが表向きの理由だ。

中国政府はこれまで、同自治区内で施設に拘束されている人の数を最大で100万人とする見方を否定している。だが、入札関係の書類には、その数が膨大であることをうかがわせる記述も見つかった。

ホータン地区のホータン県で少なくとも1か所のセンターを管轄する地元当局は、2018年初めの1か月だけで次のような物品を発注している。

中国語の教本19万4000冊。靴1万1310足。(c)AFP/Ben Dooley

https://www.afpbb.com/articles/-/3204613

在日ウイグル人証言録

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