宗教への弾圧

日本ウイグル協会は2010年2月から、日本にいるムスリム向けにチラシを配布し、ウイグルで起きている人権弾圧の実態を知らせようと活動している。
日本にいるムスリムの人々の母国は、ムスリムが多数派を占める国であることが多いため、イスラム教信仰が弾圧対象になっていることを驚きと共に、痛みとして受け取ってもらえるようである。イスラム教では、ムスリム同士は兄弟姉妹であり、互いに助けあうべき存在とされているのであるから、これからイスラム教の国がウイグル人救済のために立ち上がってくれることを期待したいと思う。それと同時に、イスラム教に関心の薄く、偏見を持つ人も多い日本人にとっては、隣国中国国内において弾圧されているウイグル人への人道的支援ということを通して、イスラム教を理解し偏見が解消されていくことにもつながっていくのではないかとも考えられる。

東トルキスタンのイスラム教
 様々な文物が行き交ったシルクロードの要衝である東トルキスタンでは、時代や地域によって様々な宗教が信仰されていた。元々遊牧民であったウイグル人は伝統的なシャーマニズム信仰を持っていたが、マニ教を国教とし、さらには定住化の後には仏教や景教(キリスト教ネストリウス派)なども受容し、独自の文化を展開するようになった。
 その後9世紀ころから庶民の間でイスラム教が信仰されるようになっていったが、支配階級の中で受け入れるようになったのは、920年カラハン朝のサトク・ボグラ・ハンからである。それから40年後にカラハン朝はイスラム教を国教と定めるようになった。テュルク系民族の国で初めてイスラム教を受容したのがカラハン朝であると言われている。
 これ以後次第にイスラム教が東トルキスタン全域に浸透していったが、東トルキスタン全土がイスラム化されるのは、16世紀前半にクムル(ハミ)から仏教徒勢力が追い出されたときである。

 イスラム教が受容されてから、東トルキスタンのウイグル人たちにとって、イスラム教は生活の重要な位置を占めてきた。
しかし中国政府は東トルキスタンのウイグル人を民族浄化政策の一環として、イスラム教の信仰に対しても様々な弾圧を行っている。

中国政府の行うウイグル人のイスラム教信仰への弾圧
 中国は共産主義無宗教国家として、それぞれの宗教に対しての抑圧を行っているが、ウイグル人のイスラム教信仰への弾圧は特に厳しいものになっている。
全てのモスクは国家が管理する「中国イスラム協会」に登録されていなければならず、イマム以上の宗教指導者は当局からの許可が必要となっている。宗教指導者は定期的に愛国教育を受けて、免許を行進する必要がある。つまりは、イスラム教の教義に通じた者ではなく、中国政府の意向に沿う者が宗教指導者になっているのである。
また当局によって、どの版のコーランを使用して良いか、催事でどのような内容を話してよいか、などが厳重に監視されている。

 更に2007年からは、ムスリムの五行である「メッカ巡礼(ハッジ)」を阻害するために、ウイグル人のパスポートが取り上げられるということも起きている。
モスクには18歳以下の者、公務員、共産党員は入ることが禁止されている。18歳以下の者には自宅で宗教教育を受けることすら禁止されている。
また学校では、宗教の祭日を祝うこと、宗教のテキストを学ぶこと、宗教的な衣装をまとう事などが禁止されている。地域によっては女性のスカーフ、男性のひげなども禁止されている。
学校の寮では教師が、1日5回の祈りや、ラマダンのときの断食(日中は飲み食いをしない)などの、宗教的行為を行っている学生がいないかを見回っている。皮肉なとことに、ラマダンの時期だけ、職場や学校では昼の弁当が用意されるという。

 文革の時期には多くのモスクが閉鎖され、聖職者も逮捕されるなど、宗教的に最悪の受難の時期であった。文革終了後、徐々に改善されつつあったが、90年代中頃から再び数百のモスクが閉鎖に追い込まれている。

 もしこれらの中国政府による宗教的取り決めに違反した場合には、職場などから追放、罰金、トウ案(身分調書)への犯罪歴の記録、家族への嫌がらせ、拘留、労働矯正などの行政処分が待っている。
 中国政府の目的は、国家の許可なしに宗教団体が宗教活動をすることを困難にさせることと、許可した場合であっても、その宗教団体を自らの監視下に置くことである。

 ソ連の崩壊と中央アジアの独立があった1990年代中頃から、イスラム教への弾圧が強められた。中国政府は犯罪撲滅のため「厳打」キャンペーンが度々行われるが、中国全土では通常の犯罪についてを対象にしているのに対し、ここ東トルキスタンに於いては、宗教への弾圧の手段として用いられている。ウイグル人の「宗教活動」=「分離主義運動」であるとみなし、「厳打」の対象であるとされている。
 ウイグル人の宗教活動に対しての締め付けは、他の民族に比べて厳しくなっている。これは他の民族、カザフ、タジク、ウズベク、モンゴルなどは既に中国の外に自民族の国家があることから、それほど民族独立主義的な志向がないと見られているためである。
 イスラム教は、彼らテュルク系諸民族のアイデンティティのうち、かなり重要な位置を占めている。よって、中国政府からの弾圧は、彼らからしてみれば単なる宗教への弾圧に留まらず、自らの存在を否定されるかのような脅威を抱かせるものになっている。

若者への宗教的な教育が行われないこと、それと共に地域社会の連帯が好ましくないとして政府により地域の集まりが制限されていることなどによって、若者の信仰やモラルが低下していると言われる。さらに様々な抑圧や経済的な差別などから希望を失う者が、ドラッグに溺れてエイズに罹ったりするなど深刻な社会問題を生んでいる。

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