【本】「ウイグル十二ムカーム シルクロードにこだまする愛の歌」萩田麗子

シルクロードの響き。
いま中国との領土・民族問題に揺れるウイグル。
その歴史を、美しい音楽文化の伝統からしずかに見つめ直す一冊。

 伝統楽器のオーケストラによる組曲(2005年ユネスコ無形文化遺産登録)。 すべて演奏すると24時間かかると言われている壮大な楽曲は、ウイグル 民衆の中で誕生、16世紀にシルクロードで栄えた国の宮廷で洗練され、 音楽と詩と舞踊の総合芸術となった。日本人がどこか憧れてやまない シルクロードに500年こだました愛の詩、初の完全翻訳。
 十二ムカームの歌詞は44人の詩人の詩から採られている。詩人たちの生きた時代は15世紀初めから19世紀までの長きにわたっており、職業詩人のほか、王侯貴族、政府高官、役人、学者、托鉢僧、楽師、教師と、その社会的地位はさまざまである。天寿を全うした者もいれば権力闘争に巻き込まれて命を落とした者もいる。さらには、社会改革を詩で訴えて処刑された者もいる。当時の「詩」というものが、社交の道具、詠む者や聴く者の心に慰めを与えるものとしての役割のほかに、更に深く人々の人生に関わりを持っていたことがうかがえる。

目次紹介
ムカーム翻訳 第一 ラーク / 第二 チャッバーヤート /第三 スィガー / 第四 チャハールガー / 第五 パンジガー / 第六 オズハール / 第七 アジャム /第八 ウッシャーク / 第九 バーヤート / 第十 ナワー / 第十一 ムシャーワラク / 第十二 イラーク / アービチャシュマ
解説 Ⅰ 十二ムカームの成立 / Ⅱ 十二ムカームの名称と曲名 / Ⅲ 十二ムカームの歌詞 / Ⅳ 詩人紹介
音楽解説(若林忠宏)
一 ウイグル・ムカームのシルクロード〜西アジア民族音楽に於ける立場、性格について
二 ウイグル・ムカームに用いられるウイグル民族楽器

著者略歴/萩田麗子(はぎた・れいこ)
熊本県生れ。1983年、東京外国語大学大学院修士課程アジア第二言語科修了。1988〜89年、カラチ大学(パキスタン)留学。94〜95年、新疆大学(中国)留学。専攻:古典詩研究。

ウイグル十二ムカーム シルクロードにこだまする愛の歌
著者:萩田麗子
発行:集広舎
A5判並製/256頁
定価:本体2,000円+税
2014年11月8日発売
ISBN 978-4-904213-22-3

新刊案内/ウイグル十二ムカーム──シルクロードにこだまする愛の歌 | 集広舎
http://www.shukousha.com/information/publishing/3504/

※11月27日に出版記念講演会が行われます。
http://12muqam.web.fc2.com/

book_12muqam


ウイグル十二ムカムとは何か
萩田麗子

 ウイグル人は9世紀半ばに現在の地に定住してから早い段階で、高度な音楽体系を作りだしていた。それらは各地の名前を付けてクチャ楽(がく)、トルファン・クムル楽、カシュガル・ホータン楽と呼ばれていた。

 時代が下り10世紀前半にカラハン国でイスラム教が国教に定められると、基層のウイグル文化の上にイスラム教とイスラム哲学やアラブ、ペルシャ文学の要素が積極的に取り入れられるようになり、音楽の世界でもアラブやペルシャの音楽体系の影響を受けた曲が作られ、アラビア語源のムカムという名称が定着した。
 「ムカム」という言葉はアラビア語では単に音楽の旋法という意味を持つものだが、ウイグル語に取り入れられると「音楽、歌、踊りで構成される大型組曲」という意味が付け加えられた。

 ムカムはおそらく初期の段階では曲数も少なかったであろう。だがムカムチー(ムカム師)や音楽に造詣の深い人々が己の技量と感性に応じて新しい詩を手に入れ、新しい曲を作曲し、また各地のムカムチーと交流する中で互いに曲を教え合ったりして曲数が増えていき、数曲から数十曲で構成される組曲が作られた。
 そしてそれらの組曲が集められた「大組曲」とも言うべきものが創り上げられた。それが現在各地に伝えられているムカムである。クムル(ハミ)では12、トルファンでは11、イリでは14、新疆南部のドランでは9、カシュガル(ホータン地域を含む)では13のムカムが伝えられている。
 ここで「十二ムカム」はどの土地のムカムなのかという疑問が出てくるが、実は十二ムカムはカシュガルとイリで伝わっていたムカムをもとにして二十世紀に入って再構築されたムカムなのである。

 ムカムチーたちの努力によって歴史の荒波をかいくぐって生き延びてきたムカムは、二十世紀初頭になると急激な社会変化についていくことができずに、ほとんどが完全なかたちでの伝承は難しくなっていた。このような時、当時のソ連で行われていた民族音楽の再構築運動に影響された、新疆自治区初代主席サイフディン・アズィーズィー(1915-2003)の陣頭指揮のもと、ムカムの発掘保存プロジェクトが開始されたのである。
 どのムカムをどのように保存するべきかとなった時、ひな形として採用されたのがカシュガルのムカムだった。カシュガルは昔から文化の中心地で、パトロン気質を持つ富裕層や知識人のムカム愛好家が多く、一時期は宮廷でも演奏されていた。そのため、カシュガルのムカムは曲数も多くメロディーやリズムが非常に多彩で洗練されていた。
 また、カシュガルのムカムは歌詞の三分の二以上がチャガタイ・トルコ語で詠まれた古典詩から採られていた。このことが、ムカムの内容の深さ、格調の高さをアピールするのに役立つと考えられたのである。

 正式にプロジェクトが開始されたのは1951年であるが、その一年前から、専門家がカシュガルのムカムチーたちのもとへ出向き録音する作業が始まっていた。録音された曲は五線紙に採譜され誰もが読めるようになった。

 歌詞はムカムチーの記憶に頼って口伝えで伝えられていたので、同じ詩でも異なっているものがあり、それらは可能な限り原典にあたって修正された。一人のムカムチーが全曲を覚えていたというわけではなく、カシュガルのムカムチーが覚えていなかった曲はイリのムカムチーによって補われた(カシュガルとイリのムカムチーたちの交流はよく行われていて、共有しているムカムも多かったのである)。

 こうしてほぼ完全に近いかたちで甦ったムカムに「ウイグル十二ムカム」という名前が付けられたのである。

 五線紙上の音符で演奏されるムカムからは、即興で演奏される音楽が持つ微妙な味わいやダイナミズムが失われるかもしれないが、楽譜があることによりムカムが永久に保存されることになったのは事実である。

 1987年、新疆ウイグル自治区ムカム芸術団が結成されると、「ウイグル十二ムカム」の第二番目のムカム、チャバーヤートが国の内外で披露されるようになった。「ウイグル十二ムカム」が脚光を浴びたことにより、各地のムカムも保存に向けて力が入れられるようになった。しかし、一度消滅しかけたものを蘇らせるにはかなりの困難が伴うものである。

 「民衆が必要としないものは消滅するのだ」と言うのは簡単であるが、ウイグルのムカムは消滅するに任せておくにはあまりにも惜しい文化遺産である。おそらくこの点が考慮され、ユネスコが2005年に発表した「人類の無形文化遺産の代表となるもののリスト」に、各地に伝わるウイグルのムカムが入れられたのではないだろうか。そして、リストへの登録が検討される段階では、かつて宮廷人や富裕な階層の人々が客人をもてなしたであろう形で、華やかな民族衣装をまとった器楽演奏者、歌手、舞踊家によるチャッバヤートの海外公演がプラスの力を発揮したであろうことは想像に難くない。

 「ウイグル十二ムカム」は、新疆の地に、ウイグル人が生み出し発展させた「ムカム」という民族音楽が存在しているということを、これからも世界の人々に知らせる役割を果たしていくことだろう。(完)

在日ウイグル人証言録

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